入社して数か月。私は毎日が不安で仕方なかった。
営業職を選んだのは、他に道がなかったからだ。就職活動が思うようにいかず、最後に拾ってもらえたのが今の会社。けれど、人前で話すのが得意ではない私には向いていない仕事だと、すぐに思い知らされた。
商談の席で声が震え、言葉が出てこない。相手の目を見ることすらできない。上司からは「もっとハキハキしろ」と叱られる。
自分は何てダメな人間なんだろうと、毎日涙しながら仕事をする日々だった。
そんな私に声をかけてくれたのが、1つ上の先輩、高橋 蓮(レン)さんだった。
「小山さん、大丈夫?あんまり気を落としたらダメだよ」
今日も落ち込んでいた私に、レンさんはそう言って笑いかけてくれた。
優しい笑顔だった。作り物ではなく、本当に元気づけようとしてくれているんだと伝わってきた。
◆
「小山さん、おはよう!」
翌朝、オフィスに入るとすぐにレンさんの声がした。自分の名前を呼ばれるだけで、少し安心する自分がいた。
とある商談で、レンさんと同行する事になった。私は不安でいっぱいだった。案の定、商談の途中で言葉に詰まり、頭が真っ白になる。パニックになりかけた瞬間、レンさんが自然に会話を引き取ってくれた。
「うちの商品はですね、実際に導入していただいたお客様からも好評でして――」
淀みなく続く説明に、先方も頷き、空気が和らいでいく。私は横で頷くだけしかできなかった。情けなくて悔しい。でも、同時に心底助けられていた。
打ち合わせが終わった帰り道、私は小声で謝った。
「……すみません、私、全然できなくて」
「いいんだよ。最初から完璧にできる人なんていない。僕も昔は噛みまくってたしね」
「えっ、レンさんもですか?」
「そうそう。だから気にしなくていいよ。少しずつ慣れれば大丈夫だから」
歩きながら、軽く肩を叩いてくれる。その何気ない仕草が、心を軽くしてくれた。
◆
その日の夜、布団に入っても眠れなかった。頭の中で繰り返し思い出してしまう。先輩が隣で言葉を繋いでくれた場面、励ましてくれた言葉。
胸が熱くなる。呼吸が早まる。枕に顔を埋めても、鼓動の音が耳から離れない。指先がじんじんと熱を帯び、どうしていいか分からなくなる。
私は恋をしているわけじゃない。先輩を男性として好きなわけじゃない。ただ、あの人のようになりたい。あんな風に堂々と仕事をこなし、後輩を守れる人になりたい。
レンさんに助けてもらってばかりで、自分が情けない。
その想いに反して、気づけば手が勝手に動いていた。レンさんの笑顔を思い浮かべただけで身体が熱く疼き始める。肩を軽く叩かれた瞬間の温もり、耳に残る声。耳元で響く穏やかな声。
「気にしなくていいよ。少しずつ慣れれば大丈夫だから」
その言葉が、今、まるで誘うような甘い響きに変わって、心を揺さぶる。
ベッドの上で、薄いパジャマの裾をそっとたくし上げる。肌に触れる空気がひんやりと冷たいのに、身体は燃えるように熱い。指先がためらいがちに肌を這う。胸の下、柔らかな腹部をなぞると、わずかな刺激で身体がビクンと跳ねる。息が浅くなり、喉の奥から抑えきれない吐息が漏れる。
「はぁ……っ」
指が下腹部にたどり着く。そこはすでに熱く、湿り気を帯びている。触れるたびに小さな電流のような震えが走り、太ももが無意識に締まる。
ゆっくりと、慎重に指を動かす。膣のまわりを円を描くように、優しく、しかし確実に自分を刺激する。
身体が敏感に反応し、腰がわずかに浮く。
「ん……ふっ」
吐息が漏れ、慌てて唇を噛む。レンさんの声が頭の中で反響する。
「大丈夫だから」その言葉が、まるで今この瞬間に囁かれているかのように聞こえる。
普段の控えめな自分とは違う、この熱い衝動が怖いのに、止められない。
指の動きが少しずつ大胆になる。熱が高まり、身体の奥から湧き上がる快感に抗えない。シーツを握る手が震え、爪が布に食い込む。
もう一方の手は無意識に伸び、コンプレックスをもっている小さな膨らみをそっと揉みしだく。指先が頂点を軽くつまむと、鋭い快感が全身を突き抜け、喉から小さな喘ぎが漏れる。
「あ……んっ」
声を抑えようと必死に枕に顔を押しつけるが、普段の静かな自分からは想像できないような声が出てしまう。
恥ずかしいのに、興奮が止まらない。
レンさんの笑顔が、肩に触れた手の感触が、頭の中で何度もリプレイされる。そのたびに、指の動きが速くなり、リズムが無意識に刻まれる。
「はぁ……っ、んん……」
吐息が荒くなり、喘ぎが混じり始める。熱い波が身体を支配し、腰が勝手に動き出す。
「だめ、こんな……あっ、んんっ!」
心の中で必死に否定する。尊敬しているだけなのに、どうしてこんなことをしてしまうのか。頭ではわかっているのに、身体が言うことを聞かない。
ついに、熱い濁流が身体を飲み込む。背中が弓なりにしなり、喉の奥から押し殺した喘ぎが漏れる。
「……はぁんっ……あぁ……イク……イっちゃう……だめ……」
全身が痙攣するような快感に震え、力が抜ける。
シーツを握っていた手がゆっくりと緩み、乱れた呼吸を整えながら天井を見つめる。
尊敬する先輩を思い浮かべながら、こんなことをしてしまった。
胸が締め付けられるように痛む。恥ずかしさと罪悪感が押し寄せるのに、同時に、奇妙な安心感が広がる。あの人に守られている記憶が、甘く、温かく、胸の奥に残っているから。
◆
月日が流れるほど、レンさんの存在は大きくなっていった。まだ一人前の営業には程遠い私だけれど、あの人に守られながら少しずつ前に進んでいる。そう思えるから、明日も会社に行ける。
尊敬の気持ちは揺るがない。それが時に私を苦しめ、同時に支えにもなっている。矛盾しているようで、でも確かに私を前へと押し出してくれる。
私もいつか、レンさんのように誰かを守れる人間になりたい。
そう思って日々を過ごしていた時だった――。
【2章へつづく…】
——————