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桜梅桃華@女装・TSF小説
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残業の果てに辿り着いた、僕の新しい世界:8

屈辱のお買い物

「こっちのお店、見てみましょう!」


千尋に手を引かれるまま、僕はレディースのアパレルフロアへ足を踏み入れた。

フロア全体が白を基調にした明るい照明で、棚やハンガーには色とりどりのワンピース、スカート、ブラウスが整然と並んでいる。

ショーウィンドウのマネキンは、甘い色のフリルワンピースや、シックなブラウスにタイトスカートを合わせたコーディネートをまとっていた。

その光景だけで胃の奥がきゅっと縮み、呼吸が浅くなる。


「レンくん、こういうの着たら絶対似合うよね」


瑠衣が指差したのは、淡いピンク色のフリルワンピース。胸元に小さなリボンが縫い付けられ、袖は透けるシフォン素材。明らかに“女の子”のための服だ。


「いやっ……それは……」と反射的に否定しかけたが、真帆がその横で黒のタイトスカートと白ブラウスを手に取っていた。


「こっちは大人っぽくていいんじゃない? 会社帰りに着てそうな、落ち着いた感じ」


二人の視線が僕に突き刺さる。甘さと大人っぽさ――どちらも、僕の居場所とは無縁のものだ。


「せっかくだし、試着してみませんか?」


千尋がにっこり笑った。

その瞳に悪意はない。むしろ、楽しそうに僕の反応を待っている。


僕は力なく頷くしかなかった。



試着室に押し込まれ、カーテンを閉じた瞬間、鼓動が耳の奥まで響いてくる。


ジャケットとシャツを脱ぎ、ブラがむき出しになった自分の姿に思わず目を逸らした。

鏡に映るのは、明らかに“男”なのに、赤いレースのブラだけが女々しく浮いている。


吐き気を覚えるような羞恥に襲われながらも、フリルワンピースを手に取る。


「あれっ?これってどうやってきるんだ?」


初めて着るワンピース。僕は着方すら分からず、頭から被ることにした。

ひんやりした布が肌に触れるたび、逃げ場のない現実を突きつけられる。

裾を下ろすと腰のラインがくっきり浮かび上がる。


鏡に映った自分は、どこから見ても女の子。

淡いピンクのワンピースに包まれ、頬には化粧品売り場で付けられたリップの名残が赤く残っている。


腰をくねらせるようなシルエットが、余計に“女”を強調していた。

視線を逸らそうとするのに、鏡は容赦なくその姿を突きつけてくる。


「どう?みんなに見せて」

カーテンの外か瑠衣の弾んだ声が聞こえる。


「……あ、あの……」

喉が詰まり、声が裏返る。肯定も否定もできず、曖昧に濁すしかない。


カーテンを少し開けると、千尋の瞳がぱっと輝いた。


「すごく可愛いです!」

その言葉は、心の奥を鋭く突き刺した。彼女は本気でそう思っている。

善意だからこそ、余計に逃げられない。



「じゃあ次はこっちも!」

今度は真帆がブラウスとタイトスカートを渡してきた。


タイトスカートを腰に通しブラウスを身に纏う。メンズのシャツと違って胸元が張って見える。


「う、うぅ……」

鏡に映る自分を直視できず、曖昧に返事をすることしかできない。

それなのに千尋は嬉しそうに拍手までしてくれた。


「やっぱり、似合ってますね!レンさん、大人っぽい服もすごく合います!」

その無邪気さに胸が苦しくなる。僕の本心は「やめてくれ」なのに。



「ちょっとお手洗いに行ってきますね」

千尋が立ち去った瞬間、空気が凍りついた。

瑠衣と真帆が並んで立ち、カーテンを半分開ける。

二人の笑みは柔らかいのに、視線は鋭い刃のようだ。


「レンくん、もっと嬉しそうにしなさいよ」

瑠衣の声が低く響く。


「……え?」


「そんな引きつった顔じゃ、千尋ちゃんに失礼でしょ」

真帆がスマホを掲げる。画面に映っていたのは、あの日、女子トイレから出てくる僕の姿。


「や、やめて……!」

全身が凍りつく。


「だったら言うこと聞いて。自分の事も“私”って言いなさい。口調も、ちゃんと女の子らしく」

瑠衣が一歩近づき、囁くように言う。


「この写真、拡散されたら……今後の人生、どんな目で見られるかな?」

頭の奥が真っ白になった。

同僚や友人たちの視線、両親の反応、すべてが壊れる未来が頭に浮かぶ。

逃げ場はない。僕には逆らう術が残されていなかった。


「……わ、わかりました……」

喉から絞り出す声は震え、呼吸が乱れる。羞恥と屈辱で全身が熱い。



「すみません、お待たせしました!」

千尋が戻ってきた瞬間、心臓が爆発しそうになった。

逃げたいのに、命令は下されている。


「ち、千尋ちゃん……私、あっちの服屋さんも、みてみたいなぁ……!」

必死に女子口調を演じた。

舌がもつれ、顔は熱で燃えるよう。耳の奥まで真っ赤なのがわかる。


「……っ」

千尋の眉が一瞬、ぴくりと動いた。

息が止まる。だが彼女はすぐに微笑んだ。

「はいっ!行きましょう!」

その笑顔は純粋に嬉しそうだった。

きっと彼女には、僕が“やっと心を開いてくれた”ように見えたのだろう。


(違う……違うのに……!)


心の中で必死に叫ぶが、声にならない。

千尋の瞳には、もう『尊敬する先輩』ではなく、『仲のいい女子社員』としての僕が映っているのだろう。


羞恥に押し潰されそうになりながら、僕はただ千尋の後を追うしかなかった。


【9章へつづく…】

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Comments

ありがとうございます✨ そう言って頂けると嬉しいです😭

桜梅桃華@女装・TSF小説

毎回楽しく読まさせて頂いております☺️9号以降もどうなるのか楽しみに待ってます☺️

yuu02


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