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桜梅桃華@女装・TSF小説
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ぼくはみんなのお人形:2

商店街に響くストラップシューズ

土曜の昼下がり。

僕は今、地元の商店街に立たされている。

服装はロリィタファッション。女の子が着ても目立つ服を、男の僕が着るなんて……。


フリルのついたワンピースに、パニエで膨らんだスカートがガサガサと擦れ、白いタイツはじっとりと汗を吸って脚にぴたりと張りついていた。


茶髪ロングのウィッグの中は、恥ずかしさで跳ね上がる体温のせいで、むわっとした熱を帯びている。


頭に着けた大きなリボンが、幼さと恥ずかしさをより一層際立出せる。


「うん、いいね。こういう服、ずっと着たかったんでしょ?」

「ほら、歩きなよ」


背中を軽く押され、ストラップシューズがアーケードの床をコツンと鳴らした。


(いやだ……ここ、本当に顔見知りばっかりなのに……!)


一歩進むたびに、商店街を行き交う人々の視線が突き刺さる。

すれ違った若者がひそひそと笑い、老夫婦が眉をひそめる。

それだけで心臓が締め付けられ、足先までゾクゾクと震えが走った。


「ねえ、あの子見て」

「すごく目立つ服ねえ」

「あれってゴスロリだっけ?ロリィタ?」


耳に届く断片的な声。

褒めているのか、嘲っているのか分からない。

けれどどちらにせよ、僕の羞恥心をこれでもかと煽り立てる。


「いいじゃん、映えてる映えてる」

陽菜がスマホを向け、連写音がパシャパシャと響く。


「ほら、笑ってよ。動画も撮ってるんだから」

笑えるわけがない。

顔が赤くなりすぎて、むしろ泣き出しそうだ。



「蒼、ちょっとあそこの店でジュース買ってきなよ」

美咲が指さしたのは、商店街の角にある小さなカフェスタンド。

人通りの多い場所で、注文すれば必ず声を出さなければならない。


「えっ……無理、無理だって!」


「無理じゃない。ほら、女子っぽい声で注文してみせてよ、蒼ちゃん」

沙羅がさらりと告げ、僕の肩を押す。


喉が乾いているのに、息がうまく吸えない。

それでも逆らえず、カツン、カツンとストラップシューズを鳴らしてカウンターに進む。


「い、いちごミルク……ひとつください……」

声は震え、裏返りそうになった。


店員の女性は一瞬驚いた顔をしたが、すぐににっこり笑って「はい、ありがとうございます」と答えた。


(バレた……?いや、どうなんだ……?)

頭が真っ白になる。


背後では、女子たちの抑えきれない笑い声が響いていた。


「やるじゃん蒼!めっちゃ女の子に聞こえたよ」

「うんうん、全然違和感なかった」


褒められたはずなのに、胸が苦しい。

けれど、どこか奥でほんのわずかに、安堵に似た温かさが芽生えてしまった。


カップを受け取ったその瞬間。

小さな子どもの声が弾んだ。


「ママ、あのお姉ちゃんかわいい!」


振り返ると、小さな男の子が僕を指差して笑っていた。

母親らしき女性は軽く会釈をして通り過ぎていく。


(……お姉ちゃん……僕のこと……か……?)


胸の奥がずしんと重くなる。

本当は否定したいのに、言葉が出ない。

頬が熱くなり、視界がにじむ。


――それなのに。

他人に「かわいい」と言われた事実が、ほんのひとかけらだけ、心をくすぐった。


(違う違う……嬉しくなんてない……!)


羞恥と混じり合った小さな感情が、余計に僕を追い詰めた。


そんな僕のあいまいな表情を悟ったのか、美咲が口角を上げる。


「蒼、もう女の子に目覚めちゃったんじゃない?」


「そ、そんな事ないよ!」

すぐさま否定する。……今は……まだ……。



「次はあっちの雑貨屋ね。蒼、その服に似合うヘアアクセ買おうよ」

美咲が笑い、僕の手を強引に引く。


店に入ると、周囲の客が一斉にこちらを振り向いた。

ガラスのショーケースに映った自分の姿は、フリルのドレスに赤いグロスを光らせた“女の子”。

逃げ出したいのに、足は動かない。


「これつけてみなよ」

陽菜がヘッドドレスを差し出し、沙羅が容赦なく頭につける。


「いい感じじゃん。店員さんに似合ってるか聞いてみてよ」


「えっ……」


「ほら、早く行って」

心臓が暴れて、喉が焼けつく。

それでも僕は笑顔を作る。


「あ、あの……このヘッドドレス……どうですか?」

小さな声で言った。


店員は驚いたように目を丸くし、次の瞬間「とっても似合ってますよ」と柔らかく微笑んだ。


羞恥で息が詰まる。

でも、ほんの少しだけ、体が軽くなったような錯覚を覚えた。



ヘッドドレスを購入して店を出る。


美咲が何かに気付き、声をひそめる。


「じゃあ最後のチャレンジいこうか。せっかくだし、あの子たちに挨拶してきなよ」


目の前には、笑いながら歩いてくる数人の男子。

同じクラスの顔ぶれ。

声まで聞き慣れた連中だった。


(えっ!?……嘘だろ……やめて……!もしバレたら……)


足がすくんで動かない。

背中を押され、視界がぐらりと揺れた。


「行ってきな。蒼ちゃん」


「もしバレても……私らのことは出さないでよ?」

沙羅がささやき、陽菜のスマホがきらりと光る。


僕の心臓は、爆発しそうなほど高鳴っていた。


(このままじゃ……このままじゃ……!)


ストラップシューズが地面をカツンと鳴らし、男子たちに近づいていく。


――逃げ場は、もうどこにもなかった。


【3章へつづく…】

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