僕は今魔界から人間界に来ているのだけど、魔王様からの言いつけが何もない日はよく人間界の古本屋を巡っていてね。特に個人経営の古本屋に行くと、昔の雑誌に乗っていた珍しい小説やカストリ本、今となっては稀覯本となっている物が売られている事がある。
昔本に潰されて死にそうになってから(雑談配信参照)あまり家に本を置かない主義なので、立ち読みが可能な所では立ち読みをさせて頂くこともあるのだけれど、最近は不況故か古本屋側も様々な「人を集める策」を練るようになったようだ。
先週末に行った古本屋には、ブックカフェが併設されていた。なんでも、立ち読みは疲れるだろうから、という事で座り読みをできるようにしたそうだ。僕も最初は売上的に大丈夫なのかな……?みたいな抵抗があったが、ある意味コミックカフェのような方向性を目指しているのか、と納得したため利用する事に。ベリーのジュースとケーキを頼んで本を読んでいた。
派手さのない純喫茶然とした落ち着いた曲が店内に掛かっている。流行り病の影響もあってかそこまでぎゅうぎゅう詰めでもない店内に、お皿を空拭きしながら仲睦まじそうに話す老夫婦。モダンさというか、メロウな感覚というか、兎に角素晴らしい空間だった。
古さはあれど居心地の良い清潔な空間で暫く本を読んでいたら段々と眠たくなってしまって、本を閉じて少し目を閉じていた。本気で眠るつもりはなかったのだけれど――気が付いたら意識が閉じていた。陽気が入ってくる涼しい店内というのは眠るのに余りに適した空間である。
夢を見た。
誰かに頭を撫でられている、あまり触られるのは好きではないのだけど、不思議と嫌な心地はしない。夢の中で瞳を開ける、目の前に映ったのは古本屋の老夫婦だ。嗚呼、僕はあの人たちの子供だった。
そんなことを考えながら喫茶店のお手伝いをする。ベリーを手で絞り、ばらばらになった本の表紙を揃え、それが終わったら入店した客を席へ案内する。別に豊かなわけではないけど、何の不自由もなく、本に囲まれた生活を送る事が出来ることはただ幸せで。
ふと目を覚ました、10分くらい寝ていたようだ。夢というのは奇妙な物で、あの内容が10分程度に凝縮されていたとは少し考えづらい。老夫婦の奥様の方が、僕をにこやかに見ていた。眠っていたのがバレてしまったのだろうか、何となくバツが悪くなって、僕は苦笑いを浮かべた。
結局、獏に関する書籍を読んで帰ってきた。黒森町綺譚に獏をモチーフにしたキャラが出ていて、それが興味に影響を与えたであろう事は想像に難くない。
そうでなくとも、人の夢を食べる生物というのに興味があった。
そのカフェに獏の本はもう一冊あった、今週末にもう一度行ってみよう。
人の夢を食べる妖怪、獏。僕があのカフェで見た夢は、食べないでおいてくれるといいな。