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縷々道 生我
縷々道 生我

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一人でも夜に駆け出してく

散歩、ぶらぶらと気晴らしに歩く事。気の向くまま、足の向くまま、帰りの体力の事など考えず、新天地へと脚を延ばす事。


僕は考え事がある時や、気分が靄々して眠れない時に良く散歩をする。


考え事がある時に散歩?と思う者もいるかもしれないが、かのアリストテレスも逍遥学と称し弟子達と散歩しながら思索を深めていたというのだから、それなりに効率的な行いなのだろう。


人肌未満の温度の風に晒されながら、梅雨晴れの夜を歩くは、さながら液状化した空気を泳いでいるようだ。こんな日は何か特別な出会いがありそうで、僕は最近購入した無線イヤホンを耳に嵌めた。


起動音の後「不滅の恋」のサウンドトラックが掛かる。94年の伝奇映画だ。何処となく仄暗いサウンドを聞きながら口笛を吹く。周りの迷惑など考えない――訳ではない。単純にこの辺りには民家が存在していないのだ。看板を下ろした店が疎らにあるのみの誰もいない空間。僕の周遊を止める者など、誰もいない。


夜中に口笛を吹いてはイケマセン、とは人間の言い伝えだっただろうか。野盗が空き家を見つけた時に口笛でサインを送っていたというのが元の言い伝えらしい。家の子供が夜に口笛を吹くと泥棒が空き家だと思って押しかけて来るそうだ。尤もらしい由来だが、流石に野盗が間抜けがすぎると思う。アイツ等は口笛の鳴った家に確認もせずに押し入るのか。何だか笑えてきて、口元が緩む。


僕の散歩には一つのルールがあった。

それは『分かれ道に直面したら知らない道を選ぶ事』未知を楽しむために僕は散歩をしている。


それに従い続けた結果、随分と山深い所に来てしまった。しかし、そこにも存在する分かれ道。僕は段々と山の中へと進んでいく。


その時、不意に『木が』目の前を横切った。小ぶりな枝を付けた木が、茂みから出てきて僕の目の前を通り過ぎ、静止する。人間界の木も動くのだな……ッてそんな訳あるか!そう思って僕はポケットから携帯電話を取り出し、目の前を照らした。


鹿だった、ライトに照らされてめちゃくちゃこっちを見ていた、いや逃げろや。しかもそれなりに大きい雄、枝と見間違えたのは此奴の角か……。


鹿と言えば草食動物の代表例であり、非常におとなしい印象を抱かれがちだが、豪州でペットの鹿に殺された男性の話を聞いた事があった僕は焦っていた。まずい、この身体では、握力25のこの身体では流石に鹿は倒せない。


膠着、睨み合い、鹿も相手の実力を測りかねているのだろう。その場から動かず、ただじっと此方を眺めている。先に動いた方が負ける、変な緊張感が漂ったその時だった。

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオイ!!』


地の底から鳴り響くような声、山の神!?違う。

僕の着信音、マキシマムザホルモンの『爪爪爪』!


鹿は突如鳴り出した轟音に恐れ戦きその場を去っていった。


助かった、そう言ってへたり込んだ所で目が覚めた。

やけに生々しい夢だ、不吉の前触れか?と、散歩に行くのを一瞬躊躇ったが、結局その日は散歩に行った。


そして職質を受けた、なんだそれ。

一人でも夜に駆け出してく

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