人間界に来たばかりの頃、僕は小説投稿サイトで文字を書いていた。
と言っても、当時は今ある大手小説投稿サイトも無いor知名度が低く、個人経営のサイトに登録して日記やら小説やらを徒然なるままに書く程度だった。
当時自分が書いていた小説は、一話完結形式の怪談モノだったと思う。ヒューマンドラマ×怪異、というコンセプトだけを見れば聞こえはいいかもしれないが、今思うと稚拙な出来だった。
で、その小説投稿サイトは当時にしては珍しくID登録した個人へのDM機能が付いていたのだけれど、ある日突然『秀幸(多分ひでゆき)』という男性からメールが来た。彼の名前は仮にHとしよう、あ、もう意味ないか。じゃあ秀幸でいいや。
小説投稿サイトを利用するのは内向的な人間が多い。僕もご多分に漏れない内気な魔族なのでDMなど使った事が無く、DMを開く事を少し恐れていた事を覚えている。
しかし、それは連載への応援メッセージだった。貴方の作品が好きです、いつも楽しんでいます、そんな暖かい応援の言葉。
『インターネットにもこんな善人がいるんだ……』
インターネットの負の側面ばかりを見て育ってきた僕は、感動して丁寧にお礼のメールを返した。
「ありがとうございます!まだ拙いかもしれませんが、これからも頑張って書きますね!」
すぐに返信が来た。
『俺はあなたのファンなので、言う事は何でも聞きます。何でも言ってくださいね』
ん?
……まあ、ファンと言われるのは有難いし、少し過度かもしれないが尽くしてくれるタイプのオタクなのだろう。
多少の違和感を感じながらも、「ありがとうございます、頼りにしていますね。」と手短に文を出して、その日は床に就いた。
翌朝、DMを見ると、朝の7時頃に又彼からDMが来ていた。
軽く悲鳴を上げた。
ファンが一夜にして(セバス)チャンになっていたのである。お嬢様ってなんだ、あとその小学生の尿のような擬音はなんだ、モーニングティーはもっと丁寧に淹れろ。いやそもそも文面で茶を淹れるな。あとモーニング・ティーみたいに区切って言うのちょっと腹立つな。
とはいえ、殆ど日の目を見る事がない個人運営の投稿サイトで折角ついてくれたファンの方なのだ。僕の対応が原因で作品からも離れてしまうのは寂しい。という事で、僕は無視せずに優しく返事をした。
「ありがとうございます、美味しく頂きますね。小説も2日くらいで更新しますので、是非とも楽しみにしておいてください。」
するとすぐに返信があった。
「ありがとうございます、お嬢様。私はお嬢様の召使になれて幸せです(なんか気持ち悪い顔文字)」
話が通じない……秀幸は完全に自分をセバスチャンだと思っていた。悪魔で執事ならぬ悪夢の執事である。
そして間髪入れず、秀幸から連続攻撃。
「昨日は何度もお嬢様の事を考えて作品を読んでいました」
「お嬢様のお姿を想像していました」
「愛しています、お嬢様」
ヴォエ!?!!?!?
グロい三連星に僕も限界を迎えた。そろそろ新手のサイバー犯罪として訴える事が出来ないだろうか。
これ以上このモンスターを野放しにしてはいけないと思った僕は、「私は貴方を召使いにした覚えはありません、そういったコミュニケーションは求めていません」と毅然と言い放つ。
そして最後にこう付け加えた。
「あと、一人称は私ですが僕は男です。そもそもお嬢様ではありません」
すぐに、返事はかえってきた。
ヒエッ……と思ったが、以降メッセージが来ることはなかった。お前絶対負け惜しみで言ったろそれ。知らなかったろ。オイ。
今思えば僕の当時のハンドルネームが「るる」だったのもいけなかったのだろうか。いやでも名前からハンネを付けるのなんて普通だよな……やっぱアイツが悪いわ。
僕の苦々しいインターネットの断片的な記憶、他にもたくさんある気がするから、思い出したら書き込んでいこうと思う。
皆も、急に召使になってくる輩には気を付けような!
るしお
2022-04-05 07:36:28 +0000 UTC縷々道 生我
2022-04-01 16:17:19 +0000 UTCクロアルシャ
2022-04-01 09:47:35 +0000 UTC