昔、不思議な夢を見たことを、ふと思い出した。
息をする度に喉に暖気がへばり付くような湿度の高い夜。
遠くで聞こえる祭囃子を聞きながら、僕は海岸に一人で腰かけている。
僕の身体は今よりも小さい、人間でいうと12歳くらいだろうか。
何をするでもなく、波が寄せて、返す光景を眺めている。
傍に女の人がやってくる、誰かは分からない。年の頃は20代前半くらいだろうか、うだるような暑さの中で、濃いめの化粧を綺麗に保っていたことを覚えている。
彼女は僕に、死神の話をした。
詳しい内容は朧げだが、人は死ぬ時に、死神に魂を刈り取られるのだそうだ。
中世のヨーロッパに、死の間際に死神から逃げる事で死ぬ事を回避した男がいた。
当然死神は激怒して男を追う、男に正しい死を与えるのが死神の使命だから。
しかし、男は非常に逃げるのが上手で、死神はなかなか捕まえることが出来ない。
ある時、死神は男を追いかけている最中に、馬車をぬかるみに詰まらせてしまう。
(そもそも馬車で追っていたのか……と時代を感じたことを覚えている)
困っている死神を助けに来たのは逃亡していたその男だった。
男は相手が死神だと気付かず、馬車を救い出した。
そして死神に捕まり、正しい死を与えられてしまった。
話終わった彼女は僕に問う、この話を聞いてどう思った?と。
すぐに答えられなかった、男は人として正しい気もしたし、正しくない気もした。
言葉に詰まった挙句、人間らしからぬ道を選んだ男が、人の情を捨てられなかったが故に死んだ、愚かだ、と答えた。
彼女はうんうんと頷いた後、こう言った。
私は少し違う意見を持っているわ、男は最後まで人間らしかった。
死に抗おうとするのも、それでいて情を捨てきれないのも、人間らしい行いだと思わない?その男は、誰よりも人間らしかったのよ。
正論だ、だが煙に巻くような返答でもあると思った。
それで、何が言いたいんだ、と僕は言う。彼女は言った。
この話から君が得られる教訓は一つよ、縷々道クン。
『困っている人は助けるな』
そうツッコんで目が覚めた。
この夢から僕が得られる教訓は、夢の中の話にまともに取り合うな、だ。
インディアンやアイヌ等の民族は夢を神からの託宣として重要視する傾向にある。
しかし、こんなくだらない託宣をする神様の言う事なら聞かなくてもよいだろう。
僕らの道は、託宣を受けるまでもなく僕らが決めるべきなのだから。