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【グランシュヴァリエ】第4話 騎士の魂【未実装ウマ娘】

Part.1 遅れて来た勲章  JBCクラシックが結局グランのピークだった。だとしても、グランは遠征に次ぐ遠征を止めなかった。  ローカルのファンにあれだけ嫌がられたファルコンの日本ラストランになった川崎記念まで南関で4走し、グランは久しぶりにコウチのレースに出た。  ところが、グランは2着に敗れてしまった。その時、グランは悔しさより先に安心した。  コウチのレースのレベルは上がっている。まだグランがコウチ代表であるとしても、もうグランのキャリアはゴールが近い。それなら後進が自分を脅かすのはコウチの為には良い事だ。  そのシーズンの春、グランは初めてコウチの姉妹校であるフクヤマに遠征した。かつてはアラブのウマ娘のメッカと言われたフクヤマも、もはや風前の灯火のような窮状にある。グランが行って助けになるならそれ以上の事はない。  フクヤマの年度末を飾るファイナルグランプリでグランは圧勝し、あれだけ全国で意地を見せながらまだ持っていなかった重賞のタイトルを始めて掴んだ。  グランはウイニングライブをしなければいけない事にゴールしてから気付き、少しばかり慌てた。  何しろ遠征で勝ったのはこれが初めてだ。コウチではいつも「よさこい節」で間に合わせてしまうが、それはいくらなんでも気が引けた。 「トレーナー、どうしましょう?」 「ここで初勝利は決まっとるわ」  かくして、グランは歌詞カードを手に「アラビアの唄」を歌うことになった。アラブのウマ娘はもう数人しか居ないが、フクヤマで初勝利はこれと決まっているらしい。だとしても、グランが来てくれたことをお客さんは大いに喜んだ。  そうしてグランはもはや馴染みとなった南関でのレースに戻った。着は人気を下回らなかったが、もうグランは世代交代の時期が訪れつつあるのを悟った。  もう一回フクヤマに顔を出し、帝王賞で7着に入ったのを最後にグランは脚の調子を悪くしてしばらく戦列を離れた。  思えば、レースに身を投じて初めての夏休みだった。それは一流のウマ娘だけの特権で、故障との兼ね合いでたまたまだとしても、グランは少し誇らしかった。  復帰戦はカワサキ開催のJBCクラシックになった。だが、もうベテランの域に入ったグランには大きなことを成し遂げる余力は残っていない。  グランは浦和記念も走ってコウチに戻った。もう下り坂だと分かっていても、一つだけ勝ちたいタイトルがあった。  コウチの年の瀬は高知県知事賞で締めくくられる。このレースがコウチのグランプリだ。  コウチの総大将と色んな人がグランを褒めるが、それならグランプリウィナーになりたい。ずっとコウチを留守にして全国を走り回っていたグランにとって、それは恩返しでもあった。  もう一つ勝ちたい理由がある。トレーナーの為だ。トレーナーは12月の半ばに年間最多勝記録を塗り替え、その記録をさらに伸ばそうとしていた。  グランの活躍は田舎に埋もれていたトレーナーの評価をも変えた。何十人ものウマ娘がグランを育てたトレーナーの下に集い、皆で打ち立てた記録だ。グランは案外この記録に貢献できていない自分を恥じていた。  県知事賞は2400メートル。小さいコウチのコースを2周する長丁場だ。グランは最後の追い込みで栄光を勝ち取って来たが、この日ばかりは違った。  1周目が終わったところでグランは先頭に立った。もう後続のウマ娘は追いつけない。ファルコンになったような気がしてグランは少し苦笑いした。  だが、まだ脚は残っている。最後の直線でグランは更に加速し、大差でゴール板を駆け抜けた。トレーナーの最多勝記録を290まで伸ばしてグランはグランプリウィナーとなった。 「どうだ!」  グランはゴール板を通過したのを確認して、軍刀を抜いてスタンドに掲げた。思えば、この軍刀を抜いたのはあの南部杯以来だった。  表彰式には二人のウマ娘がゲストに駆けつけてくれた。どん底のコウチを救った誰もが知るスターたるハルウララと、18連勝の金字塔を打ち立てて彼女が世に出るきっかけを作り、グランと同じく苦労の末に県知事賞を勝ち取ったイブキライズアップだ。  グランは誰もが彼女のようになってくれと求めたライズに初めてお目にかかった。  コウチを守る為に脚を失ったライズと、ただ底抜けに明るくある事でコウチを救ったウララがトロフィーを手渡してくれた。グランはウララよりも、ライズが来てくれたことが嬉しかった。 「先輩は、誇りですよ」  グランはライズの犠牲の上に自分があるのを知っていた。だからライズを誇りにし、その手を取って高々と掲げた。コウチの歴史はまだ終わらない事を示すように。拍手が鳴りやまなかった。 Part.2 老騎士の去り際  グランの翌シーズはサガの佐賀記念で5着に入った事で始まったが、後はコウチに居る時間が長かった。もうあまりハードな遠征は出来ない身体だ。なら、自分の名前でお客さんを集めるのが務めだと案外前向きになれた。  だが、フクヤマがついに廃止になってしまったのはグランも辛かった。フクヤマの最後を飾らんと大高坂賞に遠征したが、一緒に遠征したマチカネニホンバレに敗れた。  彼女はトウィンクルシリーズで実に7勝、重賞まで勝ったというのにコウチでもう一花咲かせようとやって来たのだ。今やコウチはそういうウマ娘が支えていた。フクヤマから移って来るウマ娘やスタッフの為にも、コウチを潰すわけにはいかないのだ。  今年のJBCはカナザワ開催だというので、グランはその予行演習も兼ねてイヌワシ賞でカナザワに初遠征をした。  2着だったが感触は良く、4年連続の出走となったJBCクラシックこそ人気を下回る着を取ってしまったが、これまた3年連続の出走になる浦和記念では4着に入った。  そしてシーズンの締めくくりになる県知事賞を連覇し、意外に実りの多いシーズンは終わった。だが、万全な身体で走れたのはこのシーズンが最後だった。  翌シーズンはナゴヤの名古屋大賞典に遠征して始動し、ローカルの全てのトレセンを制覇した。これはグランにとって嬉しい事だった。  だが、帝王賞へ出走したのを最後に長い休養に入り、グランはもう走れなくなるのは近いと悟った。  グランのラストシーズンは、コウチにとって転機になるシーズンだった。十数年ぶりに新入生が現れたのだ。トレセンに彼女達が現れた時、グランは寮の管理人に収まったライズと一緒に秘かに涙を流した。  コウチはもう大丈夫だと悟ったグランは、怪我を押して何度か走り、新入生のデビューを見届けて引退を決意した。  トレセンは引退式を開いてくれた。コウチで引退式というのはあまりある物ではない。グランは特別だったという事だ。URA時代のトレーナーも駆けつけてくれて、引退式はファンの涙を誘う物になった。 「いやあ、この娘もここまで走れて、コウチも盛り上がって。先生に託して良かった」 「このくらいのエビやったらどうにでも出来る思いましてな。おかげでどうにかコウチは潰れんで済んだわけで、よく預けてくんなはった」  新旧のトレーナーがグランを真ん中に置いて互いを褒めるのを見てグランは笑ってしまう。 「やけど、痛いのをこらえたんはこの娘の生まれ持った力ですわ。ここまでやるとは、思わんかったもんなあ」  トレーナーのねぎらいの言葉がずしりと重かった。グランが何故ここまで走れたのか。今となってはトレーナーにもグランにも分からない。だが、グランの足跡は消えない。それは紛れもない事実だからだ。 「ファンの皆さん」  最後に挨拶を促され、グランはマイクを手に取った。目の前にはカメラがあって、居合わせたファンの何倍もの人が観ている。そう思うとどういうわけか緊張してしまう。 「正直な話、コウチに移ると決まった時はがっかりしました」  ファンから苦笑が漏れる。そうだろう。コウチがそういう場所だったのをファンが一番よく知っている。 「けど、コウチに来たからこんなに走れました。GIに12回も出たんです。URAにもそんなウマ娘、滅多に居ません」  事情をよく知らないファンがどよめく。若いファンが増えたのもグランには喜ばしい事だった。 「私が何をやっても勝てなかったライバル。スマートファルコン、エスポワールシチー、フリオーソ、皆もう引退しました。だけど、私は彼女達よりも頑張った。それだけは譲れないし、それがローカルのウマ娘の務めだと信じてます」  グランは限界まで走った。そうして一人一人がトレセンを背負う。それがローカルに生きるウマ娘だ。グランはそれをやり遂げたのだ。 「ウマ娘は誰だって特別になりたい。そして、コウチは私を特別にしてくれた。新入生も来るようになった。もう思い残す事はありません」  グランの目に涙が浮かぶ。群衆の後ろの方では、フライトを休んで駆けつけた父が男泣きに泣いているのが見える。 「だから、こうして歩いて帰れるうちに、私にとって特別なコウチにさよならします。次のレースが始まる前に」  その時、トレーナーがにやりと笑って目配せした。すると物陰に隠れていた新入生たちがグランに群がって来て、騎バを作ってグランを担ぎ上げた。 「コウチ万歳!」  グランは軍刀を抜いて掲げ、涙声になりながら叫んだ。ファンがこれに続き、グランはたまらず泣き崩れた。 「さようなら。ありがとう!」  ファンの歓声に包まれて、グランは最高の勝負を見せた闘牛士がそうされるように新入生によってパドックを一周させられて引っ込んだ。その間にもレースの準備は進んでいる。  そうして、グランは特別なウマ娘としてレース場を去った。レースも、彼女の人生も、まだ終わらない。 Part.3 見習騎士の栄光  コウチは息を吹き返した。田舎なのでお客さんは相変わらず少ないが、今やインターネットで多くのファンがコウチのレースを観てくれる。  コウチ生え抜きの、あるいは門別の予備校から入って来るウマ娘も力を付け、URAから流れて来たウマ娘に簡単に勝ちを譲らない。それどころか、活躍して南関シリーズへ編入するウマ娘も出てくるようになった。  クラシックは激戦になる。黒潮優駿に至っては他所のウマ娘が遠征してくるようになったが、それでも他所のウマ娘においそれとダービーを明け渡す程コウチは甘くない。  故郷へ帰ったグランがスカウトしたウマ娘が華のダービーのゲートに入ろうとしていた。彼女はグランの後継者として別格の人気を誇っている。  リワードアヴァロン。グランがフランス風なら自分はイギリス風でと赤いジャケットに黒いズボン、そして胸甲という勝負服に身を包んだこのウマ娘は、血の気が多すぎてモンベツに居た頃から取りこぼしが多い。  スタンドで見守るグランは心配でたまらなかった。黒潮皐月賞から2戦続けて1番人気を裏切り、5番人気に落ちている。あくまでロマンと予想を切り離すローカルの流儀は失われていないようだ。 「揉まれると弱いのもお前に似とるんや」 「勘弁して下さいよ」  招待を受けたグランはトレーナーにちくりとやられて苦笑した。だからグランは逃げ馬を先に行かせて直線に賭けるスタイルだったが、アヴァロンは素直にハナを切れないと相手に気を取られる。  だが、勝負強さもグラン譲りと見えて、アヴァロンはスタートを決めた。 「こらいけるで!」 「頼むわよ」  グランは授賞式に出る事になっている。他のウマ娘とて可愛い後輩には違いないが、アヴァロン以外にトロフィーを授けるのはあまり気分が良くないだろう。  単身逃げるのはアヴァロンの勝ちパターンだが、ここからがアヴァロンは難しい。このどくれ娘はどこまで行っても血の気が多すぎるのだ。 「競られると振り向きよるんや」 「あの性格ですもんね」  アヴァロンは最後の直線までリードを保ち、案の定後続に追い込まれて悪い癖を出しかけた。追って来るウマ娘を睨み付けてしまい、その間にやられる。それがアヴァロンの負けパターンだ。  だが、アヴァロンは少しだけ大人になったところを見せて、一瞬頭を上げるそぶりを見せただけでどうにか堪えてトップを守ってゴールした。 「ああ、良かった」 「寿命が縮んだわ」 「まだコウチは『どくれ』が主役ですね」  後ろで見ていたライズが2人を冷やかす。とにかくアヴァロンはダービーウィナーとなり、ファンを大いに喜ばせた。 「見ました?凄いでしょ?ダービーですよ。ダービー!」  アヴァロンは表彰式に来てくれたグランに大喜びし、遅れて気性の荒さを見せた。 「そりゃあ嬉しいけど、それ直さないと後が続かないわよ」  久しぶりに勝負服に身を包んだグランは、アヴァロンにトロフィーを手渡しながら苦笑した。 「だけど、これであんたは天下のダービーウィナーね」  グランは軍刀を抜き、刀身でアヴァロンの肩を叩いた。これにはファンがわいた。 「コウチを駄目にしたら承知しないわよ」 「頑張ります」  グランはひとまず安心した。コウチが潰れるなどという心配は、当分しなくてよさそうだった。   元ネタ解説 Part.1 あれだけ全国で意地を見せながら:  グランシュヴァリエの戦績は74戦17勝。重賞は実は4勝に過ぎない。常にトップレベルに挑んできたからに他ならない。 年間最多勝記録:  グランシュヴァリエの活躍を受けて雑賀師は一躍人気調教師となり、2012年にシーズン290勝の大記録を打ち立て、通算最多勝記録も目下更新中である。 最後の追い込み:  グランシュヴァリエのレーススタイルは先行馬をそのまま行かせて最後の直線で勝負をかけるという物で、中央の馬には勝てないまでも多くのレースで地方馬最先着を記録し、しばしば遅れた中央馬を打ち負かした。 その記録をさらに伸ばそう:  奇しくもグランシュヴァリエの県知事賞が290勝目になった。 2人のウマ娘:  これはイブキライズアップ篇から持ち込んだ筆者の独自設定 フクヤマがついに廃止:  福山競馬場は2013年3月で廃止。所属馬や関係者は散り散りになったが、高知競馬は少なくない人馬を受け入れている。 ミズサワ以外:  つまり、グランシュヴァリエは地方競馬において水沢を除く13の競馬場でレースをした。中央を入れると18場になり、スノーエンデバー(中央と地方で10場ずつ)に次ぎ、トウホクビジン(中央4場、地方14場)に並ぶ歴代2位タイの大記録である。 十数年ぶりに新入生が:  高知競馬場での新馬戦は2003年にアラブで行われたのを最後に途絶えていたが、グランシュヴァリエのラストシーズンとなる2015年に復活した。 URA時代のトレーナーも駆けつけ:  グランシュヴァリエの引退式には中央時代の調教師である藤原辰雄師も訪れた。 GIに12回:  言うまでもなく高知競馬の歴代最多記録である。 次のレースが始まる前に:  競馬に限らないが、レース場でのイベントは締め切り時間を考えて行われるのが普通で、例えば表彰式で長々と歌うのは本来重大なマナー違反である。 闘牛士のように:  優れた闘牛を見せたと認められた闘牛士は仲間に肩車されて砂場を去る。これは大変な名誉であり、スペインではニュースになる。 Part.3 門別の予備校:  門別競馬場は日本で一番早く新馬戦を組むため、仕上がりの早い馬は門別でデビューしてから各地の競馬場に移るのが地方競馬のトレンドである。 リワードアヴァロン:  グランシュヴァリエはアラブのハマノパレード以来数十年ぶりの高知出身の種牡馬となった。1年で供用停止となったが、数少ない産駒の中からこのグランシュヴァリエが出てカルトな話題を呼んだ。  中央への転出と出戻りを経て、現在は浦和所属。 自分はイギリス風で:  赤いジャケットに黒いズボンというのはイギリスの近衛兵の装い。これに緑の腕章を着ければ主戦の永森騎手の勝負服と同じカラーリングになる。 血の気が多すぎて:  リワードアヴァロンは競られると潰れ、直線で頭を上げる難しい気性の持ち主。 それ治さないと:  騙馬になっても治ったとは言えず、この勝利以来リワードアヴァロンは勝利に見放されている。 刀身でアヴァロンの肩を叩いた:  これは騎士の叙任の儀式である。アヴァロンとはアーサー王の最期の地とされる伝説の島で、イギリス風というのはここから取った。

【グランシュヴァリエ】第4話 騎士の魂【未実装ウマ娘】

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