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スペースで言ってたやつ

スペースで、なんでか書いた小説を母親に見せたら喜ばれたというか褒められたみたいな話をしたのですが、それをここに載せたいと思いマウス

これは2018年に書いたものです。なんか…稚拙な文ではありますが、暇な方はどうぞ


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       ぼた雪


「あら、人って一人くらい人のこと殺していいんだよ~」

 寒気がした。部屋の温度が23度に設定されていることが原因ではないだろう。少し自慢げに倫理観を疑うような台詞を美堀は俺に向けた後すぐ視線を手元の鍋に向かった。さっきまで何の話をしていたかなんてすっかりどうでもよくなっていた。

 現在の時刻は4時15分。俺の母親は父親と離婚したとき少し頭がおかしくなってしまったので、普段は薬を飲んで気持ちを落ち着かせているか数週間入院などしてカウンセリングをするかをしている。そんな母だが、今日は体内時計が狂ってしまったらしく朝と夜の境目に大量の料理をこしらえ始めた。テーブルの上は皿でいっぱいで、2人しかいないはずの家なのにご飯茶碗は5つも床に置いてある。

「お箸並べて~」

 二セットしかない箸を机に無理やり乗せる。正直さっきたたき起こされたばかりでまだ目が完全に冷めていない。箸の組み合わせを間違えてしまったらしく火のそばから一歩も動いていないはずの美堀が注意してきた。

「あのね、今日は翔の好きなシチューがあるよ。」

 机の上には既に昨日俺が作ったシチューの残りであると思われるものが並んである。嫌な予感がして、キッチンに入り後ろから静かに鍋を覗くとそこにはコトコトと甘く匂いを嗅いだだけで冬に延々と流れるCMを連想させるようなシチューがあった。

「味見する?」

 いい、と断り、テーブルの上を再度確認するとテーブルの上にあるシチューは液体というより個体に近い状態で皿の上に乗せられていた。冷たいシチューなんて旨くねえだろ、と味を想像しながらすこしテーブルから距離を取る。バレないように欠伸をした後、俺は食器棚から適当なガラスのコップを取りだし乱雑に水道水を流し入れ、『もしもの時の』を3つほど入れて指でくるくると溶かした。

「お疲れ。朝からこんないっぱい作ってたら昼間眠くなるよ。」

「お母さんは平気。包丁の使い方が上手いから。」

 若干噛み合ってない会話はいつものことなので気にせず、水の入ったコップを渡す。ありがとうという一言の後、美堀はコップを手にして何の気も無しに飲んでいった。三分の一しか残っていないコップを取り上げて流しに置き、鍋の火を消すと青い炎が消えたと同時に美堀が俺の方にもたれかかってきた。俺はいつもの事と思いながら、ゆっくりと美堀を寝室に戻した。


「翔は、進路どうするんだ?」

 担任の先生が娘からプレゼントされたらしいネクタイピンを撫でながら俺に問を投げかける。今日は三者面談の日だったのだが母親が来れる状態じゃないことを説明すると事情を理解してくれた先生が二者面談をしようと提案してくれた。

 はあ、と適当な返事を返して生徒のイスにどっかと座る中年の男を見ながら、どうしてこうも教師と言う生き物は生徒用の椅子や机が似合わないのだろうと感心した。授業中に指名され黒板に日常生活で使われるはずがない英文を書かされている時も心底俺はチョークと黒板が似合わないなと思った。それは他のクラスメイトもそうで、隣の席の女の子が休み時間にチョークを使って黒板に歪な形をしたネコの絵を描いている姿を見てもやもやした気分になったりした。

「先生、椅子小っちゃくないですか」

「太ったって言いたいのか?」

「いや…なんかちぐはぐで…」

 完全に先生が俺を変な人間を相手にするような目つきに変わる。俺は少し焦り出す。

「進路、進路は県外出ようと思ってました。」

「へえ、県外に出るんだ。」

「秋田なんかにいたら、いつか自分も自殺するんじゃないかって怖くなったんです。」

 お前地元をなんだと思ってるんだと少し困った笑い方を浮かべる先生を俺は真剣に見つめる。こんな毎日が曇りで雪も飽きるほど降ってきて寒くて何もない場所にいたら楽しみが死後ぐらいになるは当然の事だ。

「いや…純粋に日のあたるところに行きたいんですよ」

「ふうん」

「美堀をつれて、どっか…」

 母の名前を出した瞬間、先生が眉をひそめた。

「翔、お母さんのことを名前で言うのはどうかと思うよ。ちゃんと“お母さん”って呼びな。」

「え、昔からこうなんですけど。」

「ううん。なんていうかな。」

 先生はなにやら口をむぐむぐと動かし、小さい椅子を後ろに傾けギイと乾いた音を鳴らす。

「友達じゃないんだからさぁ。ちゃんと敬う気持ちを呼び方に込めるんだよ。」

「はあ。」

 俺が先生の事を先生と呼ぶのと同じようなものなのだろう。まあ俺の場合、皆がそう呼んでいるから真似をしているようなところはあるが。


「でも美堀、お母さんっぽくないしなぁ。」

 帰宅すると、美堀はぼーっとソファーに腰かけてテレビを見ていた。明け方散らばっていた食器も今は綺麗に片付けられている。きっと目が覚めて何かしらの薬を飲んだのだろう。

父親と呼ばれる存在がいたころは、美堀も世間一般のお母さんと同じ動き方や喋り方をしていた。今はふわふわした、違う生き物になっているがギリギリ俺の記憶の中にテレビや映画で良くみる「母親」をしていた美堀についての記憶は残っている。

「おかえり翔、外雪降ってたでしょ~」

「凍えて死ぬところだった。」

「ええ、やだ~翔が死んじゃったらどうしよう。」

 返事もせず冷蔵庫を開ける。視界いっぱいに皿があって、ため息と冷蔵庫を閉める音を一緒にすることで色んなことをうやむやにした。朝の疲れがドッと急に俺に襲いかかってきて、疲れは眠気へと姿を変え始めていた。

「翔~スイッチどこ?ゲームしよ。」

「えー飯食ってすぐ寝るつもりだった!」

「やだ~遊んでよ!」

 駄々を捏ねるようにソファーの上で大人気なくぴょんぴょん美堀が跳ね始めた。やっぱり美堀はお母さんっぽくないよ、と俺も知らない誰かに語りかける。美堀の中にいたはずの母親は死んでしまった。殺してしまったのは俺かもしれない。生かし続けていたのは父親だったかもしれない。良い事なのか悪い事なのかはあまりにも明白で、考える暇もなく俺の口は動き出した。

「お母さんが死んで良かったな。」

 美堀に聞こえないように呟いて、俺は自室へ向かい家庭用ゲーム機を手に取った。室内は25度。窓を打ち付ける重い雪の音さえも俺の想いを肯定してくれているような気がした。


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スペースで言ってたやつ

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