繭が内側から青く輝く。
(……ン)
ゆっくりと意識が戻る。
(ア、モウオキナイト……)
誰かというわけではないがもう起きないと行けない。起きないと自分がやりたいことができない。やっと望むことができる時期が来た。
(ヤット、ヤットトベルンダ……ハヤクココカラデナイト……)
暗い空間から手を伸ばす。何か当たる。柔らかい。知っている。体中にまとわりついていた糸と同じもの。繭だ。
今、目覚めるまで自分の命を維持してくれた大事なものだ。
(ジャマ)
しかし、今の少女にとってはただただ飛び出す為には邪魔なだけの障害物でしかなかった。
(ドッカイッチャエ)
右手を上げて一振り。繭はあっけないほど脆く、一瞬で切り裂かれた。
切り裂かれた空間から薄暗い光が漏れる。
(ア……)
繭を更に切り裂き、初めて世界へと飛び出す。
少女が生まれた瞬間だった。
(キレイ……)
夜で月の光が眩く輝いていた。
(ア……)
しかし、そこで彼女の身体は生まれたばかりで動くための最低限の力しかないことに気付く。
(ゴハン、タベナキャ。トバナイト)
そして少女は背中の羽をヒラヒラと羽ばたかせる。
そして薄暗い空間から一気に飛び立ち、月の輝きを背に飛び立っていった。
(ゴハン、ゴハン、ゴハン……)
生まれる前はああも期待していた『飛ぶ』ということに対して何ら感慨もなかった。飛ぶことがもうできて当然のことになってしまっていた。
(ア、ゴハンミ~ッケ!)
そしてその中でエサを見つける。下賤な笑み浮かべ、舌なめずりをしてゆっくりとそのエサの前へと降り立つのであった。
「あ、あぁぁぁア……」
「フフフ。オイシイィヨォ。ホラ、モットモットォ」
「ああっ……やめてくれ!痛い!痛い!うわぁぁぁぁぁあ!」
男の悲鳴が周囲に響く。
深夜、街から少し離れた森。
最初からおかしかった。泣いている少女を見つけ、声をかけて、怖いから家までついてきてほしいと言われて手をつないで歩いていた。
その時からやけにキラキラと光る埃が待っていた。最初は該当の光に照らし出されただけだと思っていたが、気づいた時には少女に言われるがままに手をつないで歩き始めていた。それが自分がすべきことだと思って。
気が付いたら人気のない森へやってきて、意識がもうろうとして倒れ込む。そしてそのまま一瞬意識が飛んだ。
そして目を開けた瞬間、そこには少女の形をした何かが馬乗りになっていた。自分の股間のモノは既に少女の秘部に飲み込まれ、少女は精と快楽を得るために腰を前後に動かしていた。
接続部を中心に身体はガッチリと離れないように固定され、少女の脇腹部分からはあるはずのない、昆虫のような、第三の手が伸び、逃げられないように皮膚に直接突き刺して引っかかっていた。そして口から伸びたストロー状のように細長い舌は男の胸を突きさしていた。チューチューと音を立てて血を吸い取っていた。
ヒトのモノとは違うと一目でわかる青白い肌。髪も白髪でボサボサに伸びている。胸は以前よりは少し膨らみ、乳頭にはピアスが刺さる。所々に体毛が生える。
そして少女の後ろでゆっくりと鱗粉を羽ばたかせながら上下に動く一対の青色の美しい羽根。
虫だ。人間の少女ではない。蝶の化け物だ。
「アハハ、オニイサンノ『蜜』オイシイヨ」
結合部から舌から彼女は『蜜』を吸いだす。
「う、ぐぅ……」
結合部から得られる快楽で何度も射精する。その都度意識が遠のき、指一本動かすことが難しくなる。声も出せなくなる。助けを求めないといけないのに。それどころか、気持ちよく、穏やかに眠りに誘われるような感覚に襲われていた。
「アハハ、イイッ!イイッ!コンナニオイシイナンテ!オナカノナカガアタタカクナッテ、キモチイイヨォ!モット、モットチョウダァイ!」
少女は更に快楽と蜜を求めて腰を振る。
「う、あ、あ、あぁ……」
少女が快楽を弄るたびに男の血が、生命が吸い取られていく。
「う、うぅ……」
「ア、ア、アハッ!クル!オオキナノガクルヨォ!ハヤク!ハヤク!」
そして男の絶頂が近いことに気付く。少女は更に腰を動かし男の絶頂を誘う。
そして、男の腰が大きく痙攣しながら少女のを突き上げた。
「!!!」
「……ッ~~~~!」
奥深くに発射される精、全身に起きる痙攣、そして満たされる快感。少女は涎を垂らしだらしない笑みを浮かべる。
最期の力を振り絞った男はそこで意識が遠のく。
「……ぁ……ぁ…………」
それでも少女は吸い取る力を止めない。血を、更にその奥にある肉を、全身に行き渡る水分をその男が持っているものすべてを吸い取る。
「……ン……ア~、オイシカッタァ~」
吸い取って、吸い取って、そして少女はようやく満足する。
人間の男だったはずの物体は血肉を失い、脆くなった骨は砂のように風に吹かれて散っていく。跡形も残っていなかった。
「ニンゲン、コンナニオイシインダァ~。モット、モォ~ットホシイナァ。アハッ」
一度味を知ってしまったらもう止められない。
「サア、モット『蜜』イッパイノニンゲンヲミツケヨ~ット」
そう言って羽を羽ばたかせて飛び去る。
空から街を見下ろす。そこに『蜜』がたくさんあることを何故か知っている。
「ツ・ギ・ノ、ゴッチソウ~ハ~アソコダ~」
狙いを定めてそこに向かって金色に輝く粒子を放ちながら、ひらひらと、ゆっくりと降下していく。
数日後、この街で不穏な噂が流れ出る。
死んだ少女が蛾に化けて人を襲う、と。
以下おまけです。