僕は、僕を変えたかった。 いやにデカい図体は妙に目立つ癖に、実際には非力だから喧嘩を売られても負けてばかり。 なるべく人と目を合わせたくなくて髪の毛を目の下まで伸ばしてみたけれど、絡まれる数はそんなに変わらなかった。だけどこの髪型もやめられなくなってしまった。この髪型にしてからというもの、人から話しかけられることは格段に減ったからだ。 クラスで孤立して僕は思う。僕は僕を変えたい。毎日アニメを見ても誰とも感想を語ることもできない人生を変えたい。だけど、僕には一歩を踏み出す勇気がなかった。根性もなかった。 体を変えようと自宅でトレーニングするためにダンベルを買ったりもしたけれど、三日ともたずに飽きてしまった。 秋葉原に漫画を買いに行ったある日のこと。突然どしゃぶりの雨が降り出して、僕は裏路地の怪しい店に駆け込んだ。 雨宿りだと悟られるのが気まずくて、見るからにボロっちい内装のそのお店をしげしげと見回す。 何に使うのか分からないアダプターやコード類が並ぶ中、僕の目を引く文言の商品が、ひっそりと置かれていた。 『人間魔改造キット』 見た目は昔のガラケーみたいな感じだ。パカパカできる無骨な二つ折りの機械から、コードがにゅいんと伸びている。 魔改造、って言葉、聞いたことがある。なんか、ゲーム機とかを違法に改造して、オーバースペックに仕上げたりする行為のことだ。でも、人間魔改造ってなんだ? 「その商品が気になりますか」 いつの間にか背後に立っていた店員さんが俺に問いかける。俺は思わず驚いて後退り、棚にぶつかってしまった。俺は痛む肩をさすりながら聞く。 「あの……人間魔改造って」 「ええ、人間の肉体などに直接介入し、操作することのできるキットです」 そんなものが、こんなところに。 ――って、そんな馬鹿な話信じるわけないだろ。 心の中で冷静にツッコミを入れていると、店員さんが不敵に笑った。 「信じていないという顔をしていますね」 僕はどう返事をしていいかわからず曖昧に、ひきつって笑う。 「私の体を見てください。逞しいでしょう?その機械によって私自身を『魔改造』した結果ですよ」 店員さんはそんなことを言いながら腕に力瘤を作って見せる。改めてみると、店員さんは確かにボディビルダーかアメフト部員かと言ったような逞しい体をしていた。 「以前の私です」 店員さんはスマホをつけて画像を見せてくる。そこには、確かに店員さんの面影の残る眼鏡をかけた細身の青年が写っていた。 いやいや、だからって、そんな。単に筋トレに励んだだけかもしれないし。 「私は私を変えたかった……決定的だったのは、不良集団にカツアゲにあったことですね。舐められない肉体になりたい。私は強くそう思いました。ですが筋トレは理想の肉体になるにはあまりに時間がかかりすぎる。私はもっと手っ取り早く私を変える方法を模索した。ステロイド?それも考えました。ですが私には、もっと確実に私を変える方法がわかっていた。それがちょうど私が研究していた肉体への直接的干渉をできる機械です。 私は、それを、使った」 店員さんが話すのをやめる。雨が激しく降る音がする。 「私が見たところ、あなたも私と同じ人種と見える。そんなにお若いのに、自分を変えたくてたまらないと言った顔をしている。あなたは若いのだから、まだまだ未来がある。自分自身の手でしっかり自分を変えなさい。多くの大人はそういうでしょう。ですが私にはあなたの焦燥がよくわかる。今日にでも、いますぐにでも自分を変えたい。一瞬で、変身するように、全く別の自分に生まれ変わりたい。あなたは燃えるようにそう願っている――違いますか?」 店員さんはあくまで優しい口調で僕に言った。僕はなかば泣きそうになりながらも、 「そう……です。僕は、僕を変えたい。今の僕に満足していない。だけど、何をしたらいいかもわからない。僕には……あなたのような能力がない。僕は僕のまま生きていくしかないんだ」 「目の前に、あなたを変えることのできる機械があっても?」 僕は、店員さんの声に導かれるように『人間魔改造キット』を手に取った。思いの外軽い。 「お買い上げ、されますか?」 僕は聞いた。 「でも――高いでしょ?」 店員さんはにこりと微笑んだ。 いつの間にか雨は止んでいた。 『人間魔改造キット』は、お値段なんと6000円だった。 それが正規の価格なのか、割引価格なのかは分からない。店員さんは妙に僕を贔屓してくれているようだった。 「あなたは外見だけでなく内面も変える必要があると、私は思います」 そんなことを言って、どうしてかアダプタを二個くれた。 スマホの充電口だけを取り出したような、小さな接続部。 僕はそれを手の中で転がしながら家に向かった。 家に着くと、改めてそのアダプタを見つめる。本当に小さな、本体から伸びたコードがカチリと嵌まる部品。 それを、体に埋め込む必要があるらしい。 僕はほとんど絵空事を聞いているような気分だったが、あの写真を見たことや、あの店員さんの親切そうな態度に、それを信じてみてもいいかなという気分になる。 仮に騙されて何か危険な目にあっても、それでも良いと思えた。 僕は自分を変えるために、一歩踏み出さなければならないのだ。そして、こんなに簡単な一歩を、あの店員さんが用意してくれたのだ。 僕は左手を取り出すと、手首にアダプタを押し当て、ぐいっと強く埋め込んだ。 それは、あっさりと当然のような顔をしてそこに埋まり込んだ。 まるで僕自身がスマホみたいな機械に、充電コードを刺される何かになった気分だ。 僕はどきどきしながらコードをアダプタに接続した。 「ぐうっ」 体の中を奇妙な感覚が走り抜ける。寒気やめまいとは違うが、どことなく吐き気のような気分がある。 この機械が、僕の中の「何か」に干渉しているのは間違いない。 僕はパカパカを開いた。画面とテンキーがついている、画面がついている。 「うわっ」 僕は驚いた。画面に僕の名前、身長、体重、さらに諸々細かいところまで書かれている。 「すごい……」 僕がそれをスクロールして見ていると、『ゲイ(無自覚)』と書かれていた。 僕はそれを見て驚くと同時に、なんだかいろいろが納得できる気分になった。 ああ、なるほど。そうだったのか。僕は、ゲイなんだ。 そう思った瞬間、スッと『(無自覚)』の文字が消えた。 へえ、面白い。僕は少し笑う。 さあ、僕は僕自身を『魔改造』するんだ。僕は体重の項目を開いた。 数字の下に、『⇒筋肉量:少なめ』と表示されている。 僕は、自分がどういった体になりたいか考えた。考えると、あの店員さんの肉体が脳裏に浮かんだ。 ぴったりしたTシャツを着こなせる肉体。そんな感じに僕はなりたい。 僕は筋肉量を『やや多め』に設定し、脂肪量もより少なくした(体重はオートで設定された)。身長は既にデカイのでそのままだ。 決定、を選択。 「うぐっ」 ぼこぼこ、ぼこぼこと体内で何かが沸騰するような音がする。うう、ううーと僕は呻きながらその場にうずくまった。吐き気もすごい。僕は脳味噌をシェイクさせられるような感覚に酔いながら、それが収まるのを待っていた。 やがて、それが収まる。僕は立ち上がるために床に手をついて驚いた。恐ろしく自分の体を軽く感じたのだ。見ると、腕にしなやかな筋肉がついている。 そこでようやく僕はこの機械が本物だと確信した。 僕は慌てて部屋を出て、洗面所に向かった。 鏡には、別人になった自分が写っていた。 「これが、僕……」 胸や腹の筋肉をなぞりながら、僕は口が笑みの形に歪むのを抑えられなかった。 ああ、僕は僕をようやく変えたんだ! 僕はその日残り一日ずっと、まるでアバターのキャラメイクをするように、自分自身の『魔改造』を楽しんだ。 * 僕の魔改造はちんこにも及んだ。別にさほど小さいというわけではなかったが、より大きく太く立派なイチモツを僕は手に入れた。 僕は、自分に自信を持てるようになった。道を歩いていても羨望の眼差しがこの肉体に向けられていることがわかる。僕は髪を切り、顔をだし堂々と街中を歩くようになった。 クラスメイトの多くも、僕の変化に驚いたようだった。 女子が何人か、僕に話しかけてきた。 だけど僕はゲイだったので、それらを適当にあしらった。それが、一部の男子には気に入らなかったらしい。 「お前さ、何したのかしらねぇけど、キモいんだよ」 そう言って僕に絡んできたのは、武藤大河というラグビー部員だった。どうやら、意中の女子生徒が僕に話しかけていたのが気に入らないらしい。 武藤は日本男児らしいキリッとした顔つきで、鍛えられた肉体。人望も厚くクラスでも人気の生徒だった。 人通りの少ない廊下に呼び出され、僕は武藤と対峙していた。 「てか、何その体。筋トレでもしたのかよ。いくら鍛えたって根暗は根暗なんだよ」 その武藤の言葉が、無性に僕を苛立たせた。 僕は僕を変えたのだ。 僕は変わったのだ。 僕は今までの僕じゃないんだ。僕は僕を改造したんだ! 僕は左手の腕時計を撫でた。その下には、あの『端子』が刻まれている。 「聞こえてんのかよ」 どん、と武藤が僕の右胸を小突いた。 「ああ、聞こえてるよ」 僕はそう答え、素早く動いて武藤の背後に回り込むと、後ろから首を腕で締めた。 「てめぇ、このやろッ……」 武藤が苦しそうな声を漏らす。僕はそんな武藤のうなじに鼻を埋める。新鮮な汗の香りがした。 「なにしてんだ、てめ、ぇ」 「誰にしようかなってずっと思ってたんだよね」 「なに、がッ」 武藤が僕のただならぬ気配に暴れる。 「僕はね、僕を改造したんだ。普通の改造じゃない、魔改造だ。運動神経も大幅に改善したよ。現役ラガーマンの君にも負けないくらいに、僕の運動能力は高まってるんだ」 「お前、何言って……」 「信じない?これくらいマッチョになるのがどれくらい大変か、君の方がよく知ってるだろ?」 武藤は黙った。背後からはがいじめにする僕の筋肉を感じているのだから無理はない。 「だから、次は誰かを魔改造したかったんだ」 「なに、を」 「せっかくだから、君を魔改造してあげるよ。君を、僕のために生きる奴隷に改造してあげる」 「なにとちくるったことを…ひぎっ」 僕は空いた手でポケットから取り出した端子を、武藤のうなじにずぶりと差し込んだ。 「おまえっなにしたあっ」 そのまま、持ち歩いていた端末のコードをずぶりと差し込む。 「あ、ッ……」 武藤は、それきり静かになった。 このままここにいたら誰か来てしまう。僕は近くの社会科準備室の中に武藤を連れ込んだ。 * 椅子に座らされた武藤はぐったりと体を机に預けて前に倒れこんでいる。 僕は扉に中から鍵をかけ、さらに念を入れてバリケードを作った。 武藤のうなじから端末のコードが伸びている。まるで、大きなロボットとそのコントローラーみたいだ。 そう思って僕は笑う。 いや、それは本当に、そのままその通りなのだと言うことに気づいたからだ。 僕はこのコントローラーで、この男をどうにでもすることができるのだ。 僕はパカパカを開く。 武藤大河の全てがそこに表示されている。 『武藤大河 身長178cm 体重92kg 異性愛者(彼女アリ)』 他、様々な情報。どうやら『大きなおっぱいが好き』らしい。 なるほど、どノンケってやつか。 さて、これからこいつをどう料理してやろう。 こいつの運動神経をぽんこつにして、部活で足を引っ張るのを眺めるのも楽しそうだ。 だけどせっかく、唯一の端子を使った奴隷なのだから、優秀な奴隷の方が良いだろう。 こいつはもともとの顔つきや体つきは文句ない、いい男だ。 だから、僕が改造するべき、徹底的にいじくりまわすべきなのは――この男の、内面だった。 『同性愛者』 『****のことが心の底から大好き』 僕の名前だ。 『****のことを崇拝している』 『****の従順な奴隷』 『****に従うことに何よりも喜びを感じる。****のためになんでもしてやりたいと思う。****に性的に興奮する』 もちろん、「大きなおっぱいが好き」なんて項目は削除して、 『ゲイ。男が大好き。男に興奮する』 こいつが真剣に取り組んでいるだろう項目が目についた。 『ラグビー部のみんなで日本一になりたい』 その項目を容赦なく削除する。 『ラグビーをしている男が好き。ラグビーのユニフォームに興奮する変態ラガーマン』 『部員とスクラムを組むと雄を近くに感じて興奮する』 『雄くさいにおいが好き。雄くさくなりたくてラグビーをしている』 『部員は大切なオカズ』 こいつはこれで、今まで通り真剣にラグビーに取り組むだろう。 だがそれは表面上だけで、その内側にはドス黒い興奮のための、腐った欲求が渦巻いている。 さて、こんなもんでいいだろう。 俺は入力を終え『確定』ボタンを選択しぽちっと押した。 ぶるぶるっと、武藤の体が小便でも出したあとのように細かく震える。ずぼっとコードを抜いた僕は、武藤の座る椅子を小突いた。 「起きろよ、奴隷」 「ん、んぁ……あっ、**様!」 起きた武藤は、僕を見るなりその顔にうっとりと陶酔の色を浮かべて嬉しそうに僕を見つめた。 「お前は僕に改造された、そうだな?」 「はいっ、……俺は、……はぁっ、**様に、奴隷として魔改造していただきましたぁ……♡」 武藤はその体をもぞもぞと動かす。はぁはぁと荒い呼吸で、潤んだ目で俺を見つめる。 「うん、なかなか良い感じにしあがったな」 僕がそう言うと、 「う、嬉しいですッ♡俺、良い感じ、ですかっ!?」 「ああ、お前みたいないい男が俺の奴隷になったと思うと、僕も興奮するよ」 僕はそう言いながら武藤の股間に手を伸ばす。 「ヒグゥッ♡」武藤は裏返った声を漏らした。それだけで、僕の手の中のペニスがどくどくと震えた。 「おいおい、触られただけでイッちゃったのか?」 「も、申し訳ありません…だって、俺……ご主人様が…大好きだからっ♡」 「ふうん」 僕は言い、武藤の制服のチャックを下ろし、ボクサーブリーフの中に手を突っ込んだ。びしょびしょに大量の精液を出したようだ。それを手にぬりたくって、武藤の顔に塗る。 「あぁん……♡俺、ザーメンくせぇえ……♡」 「そのにおい、好きだろう?」 「はいぃ……♡俺、せぇしすきぃ……♡」 顔面全体に、まるでパックのようにザーメンを塗り広げる。 「んぅ♡」 そんな屈辱的なことをされても、武藤は幸せそうだ。 「お前はラグビーが大好きだろう?」 「はい、俺、……ラグビー、好き、です」 恍惚とした表情で武藤が答える。 「お前はなんでラグビーが好きなんだ?」 「俺、が……ラグビーを好きなの、は……」 武藤の目に、ギラギラとした光が宿った。 「俺が!ラグビーが好きなのは!雄くせえ野郎同士で密着して汗くせぇ体を近くに感じることができるからです!ラグユニがどんな服よりもエロいからです!ラガーマンが好きで、大好きで、エロいから、……俺は、ラグビーが大好きです!!!」 目に狂った光を宿し常人であれば口にするのも憚られるような欲望を丸出しにする武藤大河。 つい先ほどまで、真剣にスポーツに励むラガーマンだったとは思えない変態っぷりだ。 「自分に素直で素晴らしいぞ、武藤」 「ありがとうございます!!」 「じゃあ、これからご主人様とセックスをしようか」 「あ、……う、嬉しいです!!俺の、淫乱ラガーマン奴隷の体を、ご主人様の好きにしてください!」 そういい、武藤はたまらないといった表情でベルトをガチャガチャと外した。
ジン(浜沼盡)
2023-02-01 16:25:08 +0000 UTCセット
2023-01-30 04:00:28 +0000 UTC