奴隷司令官と獲物ヒーローズ(1・改訂版)
Added 2023-06-22 16:47:20 +0000 UTC休日など何ヶ月ぶりだろうか。それも、三連休だ。 私は普段ヒーロー基地の司令官を務めている。この世界の平和を守る、重要な任務だ。 なのでほぼ休みなく職務に当たっていたのだが、ある日部下であるヒーローたちにこう言われた――「司令、最後に休みとったの、いつですか?」 そう聞かれて咄嗟に答えられないほど休みをとっていないことがわかると、ヒーローたちはにわかに騒ぎ出した。 「司令、たまには休みをとってください!」とか、「司令は自分のことももっと大事にしないとダメです!」、とか、「司令がオーバーワークで倒れたら、それが一番深刻な事態です!」なんて。 それでも休むことを渋る俺に、ジェットブラック――黒野が言った。 「最近は『組織』の活動も沈静化しているようです。それが何か新しい活動の準備である可能性は十分にあります――だからこそ、今司令には休んでいただかないといけないんです」 真剣な眼差しで訴えるヒーローたち。 「司令、たまには休みをとってください。俺たちは大丈夫です、信じてください!」 ジェットレッド、赤井がそうダメ押しをした。 そこまで言われては、私も頷かざるを得ない。実際、最近の基地のメンバーの成長は素晴らしく、隊員たちの素早い判断には、私自身助けられることが多かった。何か深刻な事態が発生した場合は私に迷わず連絡するように、とだけ言い残して、私は久しぶりに私服で基地を後にした。 「それにしても、三日か」 帰り道、私はつぶやく。 「せっかくですから、たっぷり休んでください」と提示された休暇は三日間だった。 「いや、さすがに三日は――」と言いかけた私を、ヒーローたちが睨みつける。 「わかった、わかったよ」 司令にこんなかたちで要求をするとは、あいつらも少しは成長したのかもしれない。 そしてたどり着いた数ヶ月ぶりの自宅。ほとんど帰っていないはずなのに、いや、だからこそなのか、家はあまりにも荒廃していた。 滅多に帰らない我が家、整理整頓に無頓着な年齢の野郎の一人暮らしとはいえ、この荒れっぷりは自分でも閉口してしまう。せめて交際相手でもいれば、私ももう少し自宅を綺麗にするのかもしれない……。 ふ、と私は自分のその夢想に思わず笑ってしまう。 若い頃にヒーローとしてのパワーに目覚め戦隊の一員として戦い、現役を退いたあとは基地の中で頑張ってきた。私には交際相手どころかオナニーの暇さえロクになく、図体は立派だが、女性経験は学生の頃の数度の経験程度だ。 だが、私はそんな人生を悲しいとは思わなかった。私たちは数多くの命を守ってきたのだ。これ以上に尊く、やりがいのある仕事などはない。私は自分の宿命をちゃんと受け入れていた。 しかし、今日は久しぶりのオフの日だ。三日間、私には久しぶりの自由がある。とりあえず家を綺麗にして、掃除洗濯をし、その後に夕食の材料の買い出しにでも出かけよう。 ――そうは思ったものの、一日目は掃除や洗濯でほぼ終わってしまった。 私は慣れない家事にぐったりと疲れ果て、ベッドに倒れ込むように飛び込むとそのままぐっすりと眠った。 休暇二日目。 せっかくの休日だ。散歩がてらどこかに出かけよう。 そう思った私は近所のショッピングモールへと出かけた。 そして驚いた。近所のショッピングモールも、随分と雰囲気が変わっている。入っている店も、前に来た時とはほとんど違ってしまっているようだ。見覚えのない店ばかりで戸惑っていると、甲高い悲鳴がショッピングモールに響き渡った。 『敵』の攻撃だろうか。私は走り出し、エスカレーター近くの吹き抜けから下を見下ろす。 真っ黒い全身タイツに身を包んだ『敵』の戦闘員が、大挙し押し寄せて人々を連れ去ろうとしていた。 私は、ポケットに入れてある基地との直通の連絡装置に手を伸ばした。ボタンを押す。 しかし、基地からの返答はなかった。私は続けてスマホを取り出し画面を確認する。圏外。どうやら妨害電波が出されているようだ。今までの『敵』はそんなことをしたことはなかったのだが、やはり『敵』もこの星の、この世界の仕組みを徐々に学んでいるらしい。 しかし、この規模の騒動になっていれば、すぐに基地も察し手を打ってくるだろう。私がしなければならないことは、現状の連れ去られている人たちを助け出すこと、少しでも減らすことだった。 止まってしまったエスカレーターを駆け下りる。 「やめるんだ!」 私は市民の人々に乱暴を行う戦闘員に呼びかけた。戦闘員がこちらを見る。基地でモニター越しに見るのとは違う、生々しい存在感。かつてヒーローとして対峙していたはずにもかかわらず、間近で見るその異様な雰囲気に、私は体が強張るのを感じた。 その戦闘員は、私と同じくらい逞しい肉体をしていた。その肉体を真っ黒でテカテカした素材で覆っている。 戦闘員の真っ黒な顔の口がグパッと開き、べろりと舌がその口を舐め回った。 どうやらその戦闘員は、彼らの中でもかなり上位の存在だったらしい。 くいっと指で私の方を指し示すと、わらわらと戦闘員たちが群がってきた。私は必死に抵抗するが、多勢に無勢、四肢を拘束されて口元を覆われ、何かの薬品に意識を奪われてしまった――。 ショッピングモールにたどり着いたイエローとパープルは、その惨状に愕然とした。多数の人が攫われ、家族を失った人たちの悲痛な声が満ち満ちている。 しかし彼らも、そのさらわれた人々の中に自らの司令官がいたとは、露ほどにも思いはしなかった。 * 「ん……」 「目ヲ覚マシタカ」 覚醒した私は、思わず体を動かそうとし、壁に四肢を固定されていることを理解した。 目の前に立っていた先ほどの戦闘員――妙に体型の良いそいつ――が、私にずいと顔を寄せる。調子の狂った発音で、その戦闘員は私に問いかけてきた。 「オ前ハ、何者ダ?」 もちろん、正直に答えるわけもない。 「私は、ただの会社員だ。はやくここから出せ!」 「フン、正直ニ認メルトハ最初カラ思ッテナドイナイワ。ダガコレガナンナノカハオ前ニモ見覚エガアルダロウ?」 そう言って取り出したのは、私のポケットの中に入っていた通信装置だった。 私はそこで重大なミスをしたことを悟った。この装置をあのショッピングモールに置いていき、私の身の危険を知らせるべきだったのだ。 「な、なんだそれは。私は知らない」 「フン、オ前ノぽけっとカラ出テキタモノダゾ?我々ノ技術力を舐メテモラッテハ困ル。コレヲ押シタラドコニ繋ガルカナンテ既ニ解析済ミダ――豪田テツシ隊長?」 バレていたか。ギリっと私は歯を食いしばった。 「それで――私をどうする気だ。私を拷問でもして、基地の情報を吐かせるか?それとも私を洗脳して、お前たちの思い通りに操るか?私たちは厳しい訓練を受けている。そんな簡単にお前たちの思い通りになどならないぞ」 ハッハッハッハッハ、と目の前の戦闘員が豪快に笑った。 その邪悪な笑い声に、私はぐっと身を引き締めた。 「ナルホド。確カニソノ通リダ。恐ラクオ前ヲ思イ通リニスルノハトテモ難シイダロウ。ダガ」 だが――? 戦闘員が私の正面にぐいと顔を寄せた。真っ黒な顔、顔の凹凸だけが微かにあるその顔が、微笑んだのがわかった。 「オ前ガオ前デナクナレバ話ハ別ダ」 私はしばらく、理解に苦しんだ。俺が俺でなくなる――? 「なんだ、それは……どういう……」 やはり、洗脳の類か? 大丈夫だ、我々は精神操作に対する厳しい訓練を受けている。 大丈夫。 そう言い聞かせる自分の目の前で、戦闘員はどこかから何かのカプセルを取り出し、ぱかっと開いた。 「コレダヨ」 そこには、緑色のスライムのような粘性の高い物体が入っていた。そのスライムは、蛍光色の見た目をしているにもかかわらず、鼻の曲がりそうな臭いを発していた。まるで精液を数週間放置したような臭いだ。 「コレハナ、“人格”ナンダ」 「じん、かく……?」 「ソウ、オ前タチヲ形作ルモノダ」 私は驚く、彼らの技術――そして世界への分析は、飛躍的に加速しているようだった。私たちは『敵』の攻撃が大人しくなったなどと思っていたが、それは誤りなのだ。彼らは静かに、粛々と我々を分析し、世界を侵略するための手段を開発していたのだ。私は彼らと向き合いながら、初めて自分の中に生じた“恐怖”を感じていた。 「コノ人格ダケノ存在ニ何ガ必要カ分カルカ?」 私は彼らの言っていることが理解できなかった。いや、本当は理解していたのかもしれない。理解しながらも、それを認めたくなかっただけかもしれない。 「“うつわ”ダヨ」 戦闘員は私の体に手を伸ばし、まるで恋人がするように優しく撫で回した。 「オ前ハトテモイイ器ダ。コノ人格モ、オ前ノ体ニヨク馴染ムダロウ……」 優しく私の脇腹を撫で、胸を揉み、顔に手を伸ばす。 「やめろ…ッ変なことをするなッ……」 私は必死に身をよじって抵抗した。 「サア、オ楽シミノ時間ダ」 ひやり、とした感覚が私の首筋にあった。私は体を激しく動かして抵抗する。にゅる、にゅる、とその冷たい感触がうなじを這って、耳へと近づく。 「あぁ、やめろ、やめろっ」 私は呻いた。目の前で戦闘員が、机に肘をついて悠然とこちらを見つめている。 にゅるぅ そして、スライムが耳へと侵食した。 「ギァッ」 「ドウダ?キモチイイダロウ?」 私は遠くにその声を聞いた。それは遥か彼方にある声のようだった。 私はあまりの快楽に、脳みそがばかになってしまいそうな気分だった。 「ヒギイーッッ!!!イヒイィー!!」 がつん!がつん!と拘束具が悲鳴をあげるほど激しく私は腰を前に突き出した。 「イイゾ!射精シテシマエ!オ前ハ、オ前ノ“古イ人格”ハオ前ノざーめんトナッテ排出サレルノダ!!」 私は快楽に狂う頭の中で、わずかに思った。 私の人格が精液になってしまう……。 かつての私には耐えがたい屈辱だっただろう。しかし、今の私にはそれは、身を焦がすほど恋しいことに思えた。 私は段々とワタシデなくなってイッタ。ワタシのナカにワタシデナイものが……いや、ソレコソガワタシナノカモシレナカッタ。 私。ワタシ。私とは――ナンダ? ワタシニハワカル。 私ハ戦闘員。E型戦闘員367号。戦闘員トシテ組織に忠誠ヲ誓ウ事コソ私ノ正義。 違う、私は屈してはならない。私は基地の隊長で、みんなが私のことを 私ハ淫乱戦闘員。淫乱デアル事ハ戦闘員トシテ当然ノ事。私ノ体ハ淫乱。 違う、そんな、ことは はぁ、はぁ、と息も絶え絶えに喘ぎながら、私はうつろに宙を見つめていた。ズボンの中、パンツの中は先走りでぐしょぐしょだ。 違う、私は淫乱なのではない。私は××などされない。私は、私は、私は――。 「お前は淫乱戦闘員だ」 どこかから声が聞こえた。目の前の戦闘員が言ったのか、私の中の新しい人格が告げたのか、それとも、それは私自身の声だったのか、もう私にはワカラナイ。 しかし、それは真実だった。私は淫乱ナ戦闘員ナノダ。私ハ組織ニ尽クシ、全テヲ捧ゲルノダ。 私はこの淫らな体で――。 「あっあ、あぁぁああアアアアッ」 私ハ私自身ノ鍛エラレタ肉体ニ発情シタ。私ノ体ハ逞シク、雄臭ク、淫ラナモノダッタ。 コレガ私ノ体トナルノダ。私ノ淫乱ナ肉体ニナルノダ。 「アガ、アガ、ガァぁぁぁアアアアッ!!!!」 びくんっ!びくんっ! 股間が震え、精液がどぷどぷと溢れ出した。私がかつて経験したことのない、どろどろとした濃厚な精液――いや、それはもはや精液ではなく、私そのもの――が溢れ出した。 「……良いだろう」 目の前の戦闘員――今の私にはそれがA級戦闘員3号様だとわかる――が言うと、手枷と足枷が外された。 私は自由になった体で、ビシリと組織の敬礼をする。 「お前はなんだ」 「ハイッ!私は、組織の戦闘員E-367であります!組織には絶対服従、絶対の忠誠を誓います!」 私は組織の戦闘員特有の歪んだ声音で言う。 「よろしい。お前は私――そうだな?」 目の前のA-3号様が、私の股間に手を伸ばす。ぐじゅっと溢れ出た精液が、手の中で揉み解される。それはまるで、かつての私の人格をぐちゃぐちゃにするように。いや、それは本当に私だったものなのだ。 「はい、今の私はあなたと同じ存在です」 それは、表面的な意味だけではなかった。私と目の前の存在――A級戦闘員3号様は、文字通り“同じ”存在なのだ。私たちは同じ人格を共有している。ワタシハワタシ。 A-3号様の顔が目前に近づき、私は舌を伸ばしてそれに応じた。 舌と舌が絡み合い、体と体が熱を交換するまで時間はかからなかった。 休日三日目。 私は、素晴らしい休暇を過ごしていた。 ワタシトナッタワタシハ、組織ノ戦闘員トシテノ心得ヲ叩キ込ンデイタダイタ。 すでに私は私たちの一部となっていたが、射精だけではのぐいされない“かつての私”の残滓を、完全に追い払う必要があった。体に精液を注がれ、そして射精をし、心を侵食されていくたびに、ワタシハワタシニナッテイク。 「じゅうぶん馴染んだようだな、新しい人格が?」 「はい……お手数をおかけいたしました。お陰様で、私は完全に生まれ変わりました」 鏡に映っているのは、どこからどうみても戦闘員の姿――あの真っ黒なタイツに全身を包み、頭部までも覆われた存在。 「擬態しろ、かつてのお前の姿に」 「はい」 にゅるり、と頭部のマスクが溶けていき、『私』の顔が現れる。 「よい。十分お前の力を使いこなせるようになっているな」 「はい、……私は……こんな力が溢れてくるのは……かつてヒーローだったとき以来です!」 「ふはは。そうだった、お前はあのにっくきヒーロー、パワーレッドだったな。お前には苦労させられた」 「申し訳ございません、組織に歯向かった愚かな私をお許しください……!」 私はその場に土下座をした。ヒーロー司令官として、敵の組織の戦闘員に土下座をしているのだ。それはつまり、完全降伏だった。降伏。それが幸福。 ぐりっと私の頭を踏みつける戦闘員様。 「良いのだ。お前はもうかつてのお前ではない。それに……何をやればいいのか、分かるだろう?」 「ひゃいぃ、もちろんですぅ……」 私は床に頬を擦り付けながら、甘い声で返事をした。 私がしなければならないこと。 そんなことは、ただ一つ。 トロイの木馬となって奴らの懐に潜り込み、やつらを組織へ献上するのだ。 トロイの木馬? いや、違う。なぜなら私は、あいつらの司令官なのだ! 司令官が堕ちた以上、やつらの敗北はもう決定している。 「おや、……勃起しているな。仲間を堕とすのに興奮したか」 「はい、……私は……あいつらを組織に献上いたします。あいつらも私と同じ淫乱戦闘員に、私と同じ存在へと改造し、一列に整列させ組織の敬礼をさせてやります。あいつらもそれを、幸せに思うことでしょう!!!」 どぷっ。 あまりに幸福なその想像に、私の股間から再び精液が溢れた。いや、それはもう精液ではない。私があの日植え付けられたあの人格をもった存在――『ハックメーバ』が、私の睾丸から溢れ出したのだ。 私の肉体は隅々までが改造され、組織に都合の良いように作り替えられている。 この肉体で、あいつらを堕としていくのだ――私はその甘やかな想像に心震わせ、戦闘員様の前で敬礼をし、忠誠をあらためて誓った。