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ザ・ドッグトレーナー #4『告知』 (⇔3)

#4  契約を結び終え、ルルシアが去った後の玄関にはしばらくして大きな棺の様な木箱が届けられた。  厳重に鎖で縛られたその木箱を地下室へと運んでもらうと、その木箱の中からは何かを蹴る様な音が響き出し始める。  早速この錠を全て解き鎖を外して箱を開けられる状態に施すと、その棺を運んできてくれた業者の人間達はそそくさと屋敷を出て行き……あなたとマーガレット姉妹の前には開きかけの木箱だけが取り残される形となった。  目の前には、時折箱の底を蹴っているであろう乱暴な音を発して揺れている棺サイズの木箱……  中からはウーウーと唸るような声も漏れ聞こえてきている。  これが今回の依頼品だ。  まだ箱から出されてもいないのにこの抵抗の激しさ……。箱の中にはさぞかし活きの良い奴隷候補が収められているに違いないと察することが出来る。 「それじゃあ、エリナ? 蓋を開けて依頼品を外に出すから……手伝って?」 「はい、お姉様……」  毎度、この瞬間が一番緊張する。  まだどんな人物なのか分かっても居ないこの開封の時こそが、パンドラの箱を開いているようで気が引ける。  初対面で奴隷に舐められてはいけない。それは調教を行う上で最も初歩的な注意事ではあるのだが、初の顔合わせの時はその注意が最も神経を使わなければならない。  最初から舐められては調教の進展が大幅に遅れてしまうのだ。下手に優しさを見せてしまったら……前回の調教の様に時間を大幅にロスしてしまう。それを経験しているからこそ、時間が短く制限された今回は特に大事だとマーガレット姉妹も思っている。 ――ガタッ! ズズン……  重厚感のある木の蓋を取り外すと、その中には手足を拘束され横向きに寝かされ閉じ込められていた今回の“依頼品”が目に入ってくる。  想像通り……棺の底を蹴っていたであろう脚には安っぽいスニーカーが穿かせてあり、服は白い質素なTシャツとホットパンツという構成……  髪の色は濃い茶色で、長さは……ソフィアよりも少し長いくらいのセミロングか? 口には喋られないようタオルで口枷がされており、その口でフーフー言いながら目は反抗的にあなたを睨みつけている。  これは……かなり骨が折れるタイプの依頼品だ……とあなたは直感でその様に悟った。  それはソフィアも同様のようで、拘束され寝かされていた依頼品を起こし上げる際も中々に乱暴な手際で彼女の身体を棺の外へと出して床に寝かせた。 「さて……今からこの口枷を外しますが、許可の無い発言は控えて頂きます。こちらが話し終えるまで黙って告知を聞くように。良いですね?」  足枷として機能していた足首に巻かれていたロープは外すが、後ろ手に縛っている手のロープだけは解かずその様に忠告をしたソフィアは、未だムームーと唸り声を上げている依頼品をあなたの前に立たせると、手早くその口枷を解いてあげた。  すると……その依頼品は、口枷が取れた途端に…… 「プハッ!! ちょっ、ココは何処よっ!? 貴女達はなに? 私をこんな所に連れてきてどうしようって言うのよ!! ふざけるのも大概にして! 後、これ! この手のロープも外しなさいっ!!」  このような暴言を吐き連ね始めたものだから、その言葉を聞いたソフィアは眉間にしわを寄せながら…… ――バシッ!  と、殴打の様に激しい平手打ちを彼女にお見舞いし口を無理やり閉じさせようとした。 「キャッ!? い、い、痛いっっ! な、何するのよ! いきなり……」  尚も喋り続けようとする彼女に、ソフィアは表情を変えず無言でもう一度反対の頬に平手打ち繰り出す。 ――バシッっ!! 「ひっっ!? い、痛いって……や、やめて……」  頬が真っ赤になるほどの平手打ちに、流石の彼女も言葉の勢いが下がり目尻に涙を浮かべ始める。 しかし、そんな表情を見せてもソフィアの平手打ちは止まらない…… ――バシ! バシッ!!   三度、四度と連続で往復ビンタを与え、更なる殴打を加えるぞと構えをとる。  そんな殴打にすっかり弱気になってしまった彼女は「分かった分かった」とソフィアに縋るように殴打を辞めさせよう口を閉じることを約束する。  ようやく口を閉じた依頼品に、冷酷な顔を浮かべていたソフィアもフゥ吐息を零し振り上げていた手を静かに降ろしていった。  その様子を見ていたエリナは、依頼品の女性が痛がる姿を片目を閉じて怖がるように見守ったが……しかし、彼女も理解している。この初動の教育的平手打ちは、調教をするうえで自分の立場を端的に分からせるためには最善の方法である事を…… 「いいですか? 貴女がどんな経緯で奴隷に身を落としたのかは知りません。知りませんが、多額なお金を支払われ買われた身である事には違いはありません。貴女はカラダを買われたと同時に、貴女が普通の人だった頃に有していた“人間として扱われる権利”もご主人様に買われたのだと理解なさい!」  その痛烈なソフィアの言葉に、依頼品となった彼女はまだ何かを言いたげに口を開こうとしたが……その動きに手をピクリと反応させたソフィアに怯え開きかけた口を渋々閉じさせた。 「貴女のご主人様であるルルシア・ライラック様は、我々マーガレット姉妹に貴女が従順な奴隷として振る舞えるよう調教を施してほしいと依頼を下さいました。我々はこれから5日間をかけて、その依頼に応えるべくあなたを調教します」  ルルシアという名前と調教という言葉にそれぞれビクッと身体を震わせて反応した彼女は、後ろ手に拘束された手枷を気にする様に顔を下げ身体をモジモジさせながら不服そうに頬を膨らませて見せた。 「では、まずは……貴女の名前を聞かせて貰えますか? いつまでも奴隷候補とか依頼品とか言うのは面倒なので……」  言葉は発さなくはなったが反抗的な態度は変わらないその依頼品……。今度はこちらの問い掛けに対して「喋るなと言ったのは貴女でしょう?」と言わんとするように顔を背け、要求に対する答えを無視するように振舞い始める。それを見たソフィアは再び彼女を憎むように睨みつけ…… ――バシッッ!  と、先程よりも強い平手打ちを容赦なく彼女に浴びせてみせた。 「ヒッ!? い、い、痛い! や、やめてよっッ!!! 痛いって言ってるでしょ!!」 ――バシッ!! 「名前は?」 ――バシッ!!  「名前を言えって言ってるの? 分からない? うん?」 ――バシッバシッッ!!  無慈悲な平手の連続に堪らなくなった奴隷候補はその暴力から逃れようとその場に倒れ込み、転がりながら顔を庇おうとした。しかしソフィアはその様な行動すらも許そうとせず、彼女に馬乗りになると無理やり自分の方に顔を向けさせ再び平手打ちを浴びせ直した。 「反抗するのは! 構いませんがっ! 時と場合を選ばないと! こうなりますよ? 分かっていますか? ほらっ!」 ――バシッバシッ!  逃げようとしても襲ってくる殴打に流石に観念せざるを得ないと感じたのか、依頼品の女は次の平手を繰り出そうとするソフィアに必死になって自分の名前を叫びその手を止めさせた。 「り、リサ! リサ!! 鬼灯(ホオズキ)・リサよ! 言った! 言ったから……もうやめて……」  その名前を聞いてようやく手を止め馬乗りになった身体を再び起こしあげたソフィアは、エリナに彼女が立つのを手伝ってやるよう合図を送った。  エリナは「はいはい」と呆れた声を零しながらもリサと名乗った女性の背中を支え、彼女が再びその場に立つのを補佐してあげた。 「……ホオズキ・リサですか……名前から察するに東の国が出身のようですね。でも、言葉の理解度とかは問題無さそうです……会話の方も普通に出来てますし……」 「両親は日本人だけど……幼少期からこっちで過ごしたから……」 「そうですか……それは面倒が無くて済みますね。っで? 貴女はいくつです?」  ヨロヨロと立ち上がったリサは、目尻に涙を浮かべながらもどうにか頬の痛みを緩和しようと首を横に振る仕草を繰り返しソフィアの質問に答えを返そうとしない。  そんな無言の抵抗を続ける彼女に、ソフィアは更に顔を険しくさせ…… 「いくつだと聞いているのですが? 歳はいくつです? また応えないつもりですか?」  と、右手を掲げるフリをして見せる。  その右手に対して睨みの顔を崩さなかったリサは……ソフィアに対して吐き捨てるように、 「20よ! 今年ハタチになったばかり! 私はハタチの誕生日の夜に、寝ている所を強盗に襲われて、捕まって、売られる事になったのよ!」  と、聞かれていない事までもやけくそ気味に叫び……そこから更に…… 「私が行方不明になったと分かったら両親が警察に通報してくれた筈だから、こんな馬鹿みたいな人身売買ゴッコはやめた方が身の為よ! 捕まりたくないんだったらさっさと私を解放してっ! 今なら……暴力を受けた事も……黙っててあげるからっ!」  と、あなた達に対して警告まで下してくる始末。  誘拐事件に……警察が絡んでいるとなると、確かにタダでは済まされない事態になるが……  しかし、そういう……爆弾を抱えていそうな商品は、奴隷商の方が先に調べを整えている筈だ。後に爆発すると分かっている爆弾を抱えている商品など売り物にすれば、商人としての信用が地の底まで落ちるのは目に見えている事だ。だからそういう調査は特に念入りに商人自身が終わらせている筈……。  その奴隷商が“問題ない”と言っているとなれば、恐らく彼女が言った先の発言は“嘘”か……あるいわ……親が“敢えて”被害届を出していないかのどちらかである。 「貴女がどうして売られる事になったのかなど聞いてはいません。聞きたかったのは年齢の方だけです。それ以上の事を話すとなれば……また黙らせる必要が出てきますが?」  恐らく、彼女の態度から考えて……後者の方が濃厚だろう。娘が誘拐されたと分かって被害届を出さない親など通常はいない。しかし、誘拐されるのが“分かっている”親だったら……被害届も捜索願いも出す筈がない。  つまりは……彼女は何も知らされず親に売られたのだ。回収からオークションに至るまで全て奴隷商に任せ……娘を売って金に換えたのだ……借金のかたか何かにする為に……。  ソフィアもその事に気付いたようで……本来なら有無を言わさず「勝手に余計なことは喋るな」と平手で教育を入れる所だったが、その手を出さず警告で済ませてあげている。  彼女も調教師である以前に一人の人間でもある。人間はそう簡単に機械の様に冷酷に徹する事など出来やしない……。感情のあるただの人間なのだから、いくら仕事とはいえ奴隷の哀れな経緯を聞いて全く動揺しないというのは難しい。  そこが甘さだと言われれば何も言い返せないが……あなたは、彼女のそういう部分も彼女の魅力だと感じている。冷酷に徹する事が出来ない彼女の優しさは……十分に魅力的だと感じているし、出来れば無くして欲しくないとも思ってもいる。  調教に必要な事だけを突き詰めるのがプロというものだが、人間性まで無くした調教師がどんな末路を辿ったか……あなたは良く見てきている。だから、彼女には……例え未熟だと言われても、人間性だけは無くさないで欲しいと願っている。  痛みを知る人間こそが、痛みを与える側に立つべきなのだとあなたは思っているのだから……。 「必要な時はこちらから聞きます。貴女は必要な時以外口を挟まないで下さい……そうでないと、また平手をお見舞いしなくてはいけなくなります……」  リサに背を向けてその様に冷たく言葉を零すソフィアだが、彼女はリサに見えないように自分の殴打した手を反対の手で摩っていた。  きっと……慣れない殴打に手加減が出来ず自分の手にも痛みが伝わったに違いない。  その痛みを……リサに見せないよう気を払いながらケアしている。 「こ、これから……私を……どうするつもり?」  そんな心遣いを見せるソフィアに対してリサは、命令など聞いていなかったかのように勝手な発言を行ってしまう。 「くっ! 勝手に発言するなって言ってんでしょうがッっ!」  その発言に流石に怒りが沸点を越えてしまったソフィアは、振り返りざまに摩っていた手を振り上げまた平手を出す構えを見せる。 「ひっ! だ、だ、だって……わ、私……今、私……何が何だか……分かってなくて……」  今までは平手の痛みに対し目尻に涙を溜めるだけに止めていた彼女だったが、自分の放った渾身の“脅し”が通用しないと見るや突然不安に襲われてしまったようで……目からは堪え切れなくなった涙が溢れ出してしまった。  それを見たソフィアは……流石にその顔に平手を打ち込む気にもなれず、渋々と手を降ろす事を余儀なくされる。 「エリナ! このみっともない涙……拭いてあげて! こんな顔叩いたら……私の手が汚れてしまうわ……」  彼女の感情を分かってあげられるが故……汚い言葉を零さないと自分を保てない……。心の優しいソフィアには中々に辛い役柄ではあるが、今回はどうしても“調教前の調教”は彼女にやって貰いたいとあなたは思っていた。  いつもは、そういう誘導が得意なエリナかあなたが最初の説明をするのが手筈だが……それだと普段と何ら変わらずソフィアの勉強にはならない。だから今回だけはソフィアに先頭を切ってリードして貰いたいと思っていた。  不憫な奴隷を調教する……という行為は、調教師がその不憫に完全に同情してしまったら負けなのだ……。どこかで仕事だと割り切れる部分を作れないと潰されてしまう。  エリナはそこの切り替えがうまく……奴隷は奴隷……調教は調教と割り切れる性格を持っているが、ソフィアは違う。自分が悪者に映ってしまうのがどうしても耐えられない性格であり、調教にもその甘さが現れる時がある。  だから……彼女にはこの“時間の無い切羽詰まった状況”の時こそ勉強して貰いたいと思っていたのだ。  言う事を聞かない依頼品に対してどう接するのが一番効果的なのかを……自分で探ってみて欲しい。そういう思いがあったから敢えて彼女に任せた。  ……荒療治であるとは思うが、経験は言葉よりも成長を促すと信じている。あなたも先代の調教師にその様に教わって育ったくちなのだから…… 「リサちゃん……そういうの……ダメよ? 姉様が喋っちゃ駄目って言ったら……従わなきゃダメ。それはここでのルールなの。ルールは外の世界の法律と同じよ? 法律を破ったら……罰を受けなきゃならないでしょ? ココもそれは同じ♥ 痛い事されたくないって思うんだったら……ルールには従わなくっちゃね? 分かって下さるかしら?」  ソフィアの冷たさが際立てば際立つ程、エリナのこの優しい口調はリサには天使の様に映る事だろう。  調教は……この“緩急のある対応”を行うのは……実は良くない。  徹底的に絶望を与えるという段階を踏む為には、彼女に一縷の望みも与えてはならないのだ。  調教師の中でも優しくて物わかりのある人がいる……という希望を持たせるのは調教が長引いてしまう原因となる。だから本来はこのように役割を分けて対応するというのは非効率なのだが……  しかし、エリナの場合は……ただ優しいだけの調教師には育っていない。最初こそ地獄の中の天使か? と思わせる立ち振る舞いを見せるが……一旦責めに入ると、その印象は真逆になる事請け合いだ。なぜなら……彼女の責めは心が通っていないのかと思う程容赦がない。こちらが制御してやらないと……きっと死ぬまで責め続けてしまいかねない……。  姉のソフィアが短時間で最大限の苦痛を与えて屈服を迫るタイプの調教師だとすれば……エリナはその逆で、長い時間を生かさず殺さずの責めでネチネチといたぶり……屈服してもなお自分の欲望に従って責め続けてしまう制御不能の調教師タイプだ。  ある意味奴隷側よりもこちら側の方が調教のやり過ぎに緊張が走ってしまう為、まだまだ監視なしに一人で調教を行わせるにはいかない。それがエリナがまだ未熟であると言った所以だ……。 「いいですか? 助けが来ようが来まいが、今の貴女の身柄は我々が預かっているのです。ここでは私達がルールであり、絶対よ! 逆らったら徹底して再教育してあげますからそのつもりで!」  エリナに背中を摩られながらヒクヒクと涙を流すリサ……そんな彼女にソフィアは再び背中を向け拳をギュッと握り込んで何かを耐える仕草を見せる。  そして暫くリサが泣き止むのを待ち、落ち着きを取り戻した頃合いを見計らって腕を組んだ格好で再び彼女の方を向き直った。 「それで? これからの調教の事を聞きたいって言いましたっけ?」  リサはその言葉に口から言葉は発さずコクリと頭を頷かせて返事を返す。 「いいでしょう……そんなに早く知りたいのでしたら今から教えてあげます。これからの5日間……貴女がここで何を受けなければならないかを……」  ソフィアに脅すようにその様に言われ、リサは怯えるようにビクリと身体を震わせた。奴隷として堕とされたと自覚すらしていないであろう彼女は……まだココが何をする場所なのか自覚すら出来ていない筈だ。  そんな彼女に、何をするかという内容を生々しく教えるのだ……彼女が拒絶を示す事は目に見えている。 「貴女を落札したルルシア・ライラック様からは貴女に対して、以下の2つの調教を施すよう依頼を受けました」 「……ふ、2つ?」 「貴女が他の数多くの奴隷と同様に“主人にの命令に従順になる”よう、奴隷としての自覚を持たせる教育を施す……というのがまず一つ」 「主人の命令に……従順……?」 「もう一つは……ルルシア様へのご奉仕を十分に行えるよう、ルルシア様の性癖と同じ性癖を持つよう調教を施す……以上です」 「へ?? 同じ……性癖を……持つ? な、なにそれ??」 「告知は以上です……質問は有りますか? 無いのでしたら早速……感度チェックの方に移ろうかと……」 「ま、ま、ま、待って! 待って!! なに? 調教……は、まぁ、聞かされてたから何となく分かるけど……その、性癖ってなに? ルルシアとかいう人の性癖と同じものって……どういう意味??」 「奴隷のクセにご主人様の事を呼び捨てですか? ホントに呆れて溜息しか出ませんね……と言いたいところですが、まぁ、そこは今後の調教で変えていく楽しみと捉えておきましょう。……っで、なんです? 性癖の調教の部分が気になりますか?」 「き、気になるに決まってるでしょっ!! 何よその怪しい言い回しっ!!」 「そうですね……確かに性癖と言われただけでは内容は分かりませんよね?」 「せ、性奴隷がどうのこうのとは聞いてたから……どうせエッチな事をその人にして奉仕しろとか言うつもりなんでしょ……? 別にそんなの怖いとは思ってないけど……」 「へぇ……。性的な行為に対してはやるという覚悟はお有りでしたか? それは話が早い……」 「う、うるさい! 私はそんな事で臆したりしないって言ってんの! それよりも、性癖を同じものを持たせる……ってなによ? まるで……私の性癖を……その人の性癖に変えてしまうような言い回し……」 「そうですよ? そう伝わるように言ったつもりです」 「ま、まさか……特殊な性癖か何かを……私に植え付けようとか考えてないでしょうね?」 「ご明察……。案外……聡いのですね? 口の利き方も分からない馬鹿かと思ってましたが……頭は回っているようで安心しました」 「こ、これでも地元一の高校を卒業した才女よ! 法律の勉強とかもちゃんとしてて犯罪にも詳しいわ! だから気を付ける事ね! 今までの全部の犯罪行為を覚えているわよ? 私が警察に保護されたら……全部ぶちまけてやるんだから!!」 「隙あらばサラッと新しい脅しも入れて来る、そのあざとさ……嫌いではありませんよ?」 「い、いいから説明しなさい! 調教って……なに? 何をする気?」 「しかしやはり口の利き方はまだなってませんね。その減らず口……早く謝罪の言葉しか言えない口に変えてやりたいくらいだわ……」 「……ッくぅ!!」 「まぁ良いわ……それは後のお楽しみに取っておきましょう」 「むぅぅ……」 「と・こ・ろ・でだけど……貴女は、ルルシア様がどんな事で興奮される“性癖”をお持ちかって……ご存じ?」 「し、知る訳ないでしょ! まだ会ってすらいないってのに!」 「これから貴女には、ルルシア様に満足できる奉仕が行える様……調教によって性癖を曲げて頂きます……」 「性癖を……曲げる?」 「ちなみに貴女は……今、何か人には言えない特殊な性癖とか……お持ちですか?」 「そ、そんなもの持ってる訳ないでしょっ! 持っていたとしても……言わないわよ! あんたなんかに……」  「まぁ、有ろうが無かろうが別に関係ないのですがね……」 「じゃあなんで言わそうとしたのよッ!!」 「特殊な性癖を持っていたとしても……このルルシア様の性癖とは……恐らく被ってはいないでしょうし……」 「さっきから言ってるそのルルシアとかいう人の性癖って何? そんなに特殊なの?」 「特殊も特殊……調教を施さない限りは……ルルシア様の好む性癖を最初から持つ事は稀でしょうね」 「だから……なに? その特殊な……性癖って……」 「フフフ……きっと驚くと思いますよ? 世の中にはそういう性癖もあるんだって…… 「い、いいから……教えてよ! その性癖って何?」 「ではお教えいたしましょう……ルルシア様が好んでいる性癖……と言いますか、彼女が興奮してしまう……行為の名は……」 「……(ゴク)」 「……それは……“くすぐり”……です」 「…………えっ?」 「聞こえませんでしたか? ルルシア様の性癖は“くすぐり”だと言ったのですが?」 「聞き間違いじゃない……って事は……くすぐりって……アレよね? ワキとか……足の裏とかを……触って笑わせる……あの?」 「そうです。ルルシア様は奴隷に対してくすぐりを施す事で興奮する性癖をお持ちです……」 「は、はぁ? えっと……何それ? そんなの……興奮……するの?」 「人の性癖に疑問に持つのはあまり感心しかねますね……。ルルシア様は真剣にその性癖と向き合って生きて来られたのですよ?」 「だ、だって……くすぐりでしょ? あの……子供が悪戯したりじゃれ合ったりするような……アレで……興奮?」 「貴女にはこれからの調教で……その性癖を満たせるカラダになって頂きます」 「性癖を満たすって……何? そのルルシアって人……子供か何か?」 「いいえ、立派に成人された方ですよ? 個人で奴隷のお屋敷を持つほどに……ご立派な……」 「へ、へぇ……じゃあ……頭がおかしいか何か? そんな……くすぐりで興奮するなんて……聞いた事が無いんだけど?」 「ご主人様に対して何と無礼な物言い! ……と言いたい所ですが、貴女はまだ“奴隷候補”であり本当の奴隷ではありませんでしたね?」 「奴隷候補? って事は……まだ……奴隷にならずに済む道があるって……事?」 「それはあなた次第……とだけ言っておきましょうか」 「私次第……?」 「とにかく、我々はこの5日間をかけて貴女をルルシア様に満足して頂ける奴隷になれるよう調教を施します」 「調教って……もしかして……調教もコチョコチョするだけ……とか?」 「何か不服ですか?」 「えっ!? ほ、ほんとに!? それだけ? 痛い事とかする訳じゃ……ない?」 「元より貴女はルルシア様の所有物です。我々はそんな貴女の身体に傷をつける訳にはいきません。せいぜい許されているのは先程のビンタ程度……」 「そ、そ、そう。そうなんだ……アハハ……そうか、そうか……」 「うん? もしかして……今……安心とか……しました?」 「いや……ハハ……。奴隷とか調教って言われたから……酷い事とか痛い事をされるんじゃないかって少し怯えちゃったけど……そうじゃないのよね?」 「酷い事……は、まぁその人の価値観に寄りますが……少なくともビンタ以上の暴力は振るうつもりはありません」 「そっか……そっか……要は、そのルルシアって人がくすぐり合いっ子が好きだから、そのコチョコチョ遊びに付き合ってあげればいいって話なんでしょ? それならそう言ってよ! 無駄にビビっちゃったじゃない!」 「……成程。まぁ、そうですよね? そういう勘違い……最初はしがちですよね?」 「……えっ?」 「いえいえ、まぁ、協力してくれるって言うのなら……こちらも別に……文句は言いませんよ? 無駄に手を上げなくて済みますし……」 「フン! いいわ……そんなお遊びをしてる間に……警察が見つけてくれるでしょうから、そういう事だったらいくらでも……付き合ってあげようじゃない!」 「そうですか……では、本格的な調教は明日からになりますが、今日はその事前準備の為に感度チェックを行いたいと考えていますので……それにも協力してくださいますね?」 「感度チェック? どうぞどうぞ……私は貴女達のコチョコチョに笑って応えてあげればいいだけなんでしょ? そんなの……楽勝よ……」 「フフフ……では、ココからの感度チェックと調教初日は……このエリナが担当する予定ですから……貴女とはまた明後日に顔を突き合わせましょう……」 「あら……あんたじゃないんだ? チェックとやらをするの……」 「こういう仕事は妹のエリナの方が得意なので……」 「そう……それは残念ね。良い歳してそうなあんたが子供みたいに馬鹿っぽくコチョコチョ~って言って私の事くすぐるの楽しみにしてたのに……」 「それは残念ですね? まぁ……明後日にはそのお望み通りの事を……してあげますよ……」 「フン! くすぐりなんて……人の事コケにして……覚えておきなさいよ!」 「その言葉……明後日も聞けると良いのですが……ね?」 「……ふん!」  さっき涙を見せて震えていたとは思えない程“くすぐり”と聞いて強気を取り戻してしまった彼女……。これは、中々骨が折れる調教になりそうだと……と、内心大きなため息をついてしまうあなただが……調教の始まりなんて普通はこうなることが殆どだ。  まだ不安や絶望が蓄積する要素は殆ど与えていない。むしろ安堵させる要素の方が彼女の負の感情を上回っている事だろう。  初日をエリナに任せるという事を伝えた事も、その安堵の一因を担っている筈だ。なにせまだ彼女には、エリナは優しいお姉さん程度にしか映っていないのだろうから……  しかし、これから行う感度チェックで……思い知らされる事となるだろう。  舐めていたくすぐりという刺激によって……自分がどれ程辛い思いをする事になるかを……  くすぐりと拘束という組み合わせが、いかにその苦痛を倍増させ自分を苦しめることになるかを……  そして……エリナの……隠された……本当の……恐ろしさを……  →#5へ


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