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新説・笑い地獄~閻魔女王によって作られた新しい地獄~①

#1  地獄という場所は、生前に背負った業を清算させるという役割を持った場所だと言われている。  生前に人間がどのような罪を犯し、それによってどのような業を背負い、その業に対してどのような清算が必要かの判断は閻魔王の指示によって決定されるものだが、その時々によって閻魔の判断には個性があり……送り込まれた人間の魂の好みの度合いによっては軽くも重くもなるという理不尽さがあったりもする。  現、閻魔“女王”である彼女も、特に生前が女性であった魂を裁く折には……その個性がいかんなく発揮され、彼女が特別に作り上げた“オリジナルの地獄”へと堕とす事もしばしばなのである。  彼女が作り上げたオリジナルの地獄……  それは、おおよそ……今まで勤めて来た男の閻魔では考えもつかない様な特殊な地獄……  女性のカラダを知る尽くした“女の閻魔”であるからこそ生まれたこの地獄は、見た目の愉快さからか今や獄卒達の息抜きの場として観覧が行われる程の盛況ぶりとなっている。  この地獄の刑の執行人である獄卒には女性の獄卒しかなれないという彼女特有の拘りが垣間見られてはいるが、そんな異色を放つ特殊な地獄であるからこそ例え見るだけしか出来ないと言われていても男の獄卒からの支持は厚いのである。  閻魔女王いわく……獄卒達に“見られる”事も業の清算に必要な苦痛を生む事となるという。っであるが故、獄卒達が見物に来る事を制限などしていない。むしろ逆に観覧席を設けたり寛げるスペースを用意したりと“見せる”事にも力を注いでいる。  今まで存在しなかったそんな新しい地獄に落とされた女子は、おどろおどろしい場所に似つかわしくないその攻め手段とのギャップに最初は驚くものである。  しかし……  なんだ、怖い事をされるのではないのか……と、安堵出来るのは……最初の数分間だけである。  ギャップがあるとは言っても地獄は地獄である。魂の業を清算させるための苦しみがそれ相応に与えられる為に獄卒達は堕ちて来た者を責め立ててくる。  例え……その責めが……  いかに“地獄に似つかわしくない”行為だとしても…… ―――― ――― ―― 「ちょ! なんで私が地獄に堕ちんのよ! そんなの理不尽じゃないっっ!!」  閻魔女王の前に裸の格好で連れて来られた跳ねっ返りの強い性格のこの女性……彼女もまた、生前の業を清算する為にこの地獄へと堕とされた。 「うるさい、静かにしろ! お前の目の前に座っている方は閻魔様なのだぞ?」  齢18歳という若さでこの世を去った彼女は、頭から角を生やした獄卒の女性鬼に腕を掴まれながら裁きの結果を聞かせる為に閻魔の座る仰々しい椅子の前に無理やり座らされる。 「閻魔? 人が?? って……閻魔のイメージって……滅茶苦茶でかくて、怖そうなおっさんのイメージしかなかったんだけど……この人……女の人……よね?」 「こら! 閻魔と呼び捨てにするな! 失礼が無いようにと言い聞かせただろうが! この方こそが代々この地獄を統治・運用を指揮されている第75代目の閻魔女王様にあらせられるお方だぞ!」 「閻魔……女王? 何よ……その……迫力に欠ける閻魔は……」 「くっ! 閻魔様に対してなんて無礼な言葉をっっ!!」  椅子は禍々しい触手や鋭い棘やらがあしらわれており仰々しいモノではあったが、堕とされた女性から見たその閻魔女王はむしろ人間の成人女性の背格好と変わらず……丁寧な座り姿勢と着ている衣服がスーツ姿という事もあり、彼女の通っていた学校の先生がそこに居るんじゃないかという様な錯覚を与えられさえした。 「あぁ、良いのよ獄卒長。わたくし……そういう暴言とか言われるの……気にしてませんから」 「女王様……しかし、こんな舐め腐った態度を取られては……地獄の沽券に関わります!」 「フフフ♥ まぁまぁ、どうせ威勢を張れるのも今だけなのですから……今だけは許してあげましょうよ? ね?」 「ま、まぁ……女王様がそう仰るのでしたら……私は……」  獄卒長と呼ばれた女性の鬼は、確かに一目見れば鬼と分かる角だったり牙だったりが生えているのが伺えるが、この閻魔女王の女性は特にそのような人間とは非なる特徴を持ちえていない。  それよりも、この威圧感の無い笑顔を浮かべている彼女の態度の方が何を考えているか分からないという不気味さがあり……座らされた女性に不安を植え付けてしまう。 「さてさて、あなたの生前の名前は遠藤 遥さんと呼ばれておりましたっけ? ここからは貴女の事……遥さんってお呼びしても構いませんか?」 「え……う、うん……良いけど……」 「では遥さん。貴女は生前の業を清算する為にこの地獄へと堕とされた訳ですが……自分がなぜ業を背負ってしまったか……自覚は有りますか?」 「ごう……? 業って何よ?」 「業というのは……そうですね、人間世界で言う所の罪……罰を与えられるに値する罪を犯した……と理解した方が貴女には分かりやすいですかね?」 「罰を与えられるに値する……罪? それを私が犯したって言うの?」 「自覚が無い……という事で良いですね?」 「じ、自覚も何も……私は18年間かなり真面目に生きてきたつもりよ? そんな地獄に落ちる程の罪を犯すだなんて……」 「……そうですね。貴女は中学生、高校生と生徒会長になられ成績も優秀……友達も多く居て、人当たりも良くとても立派な学生生活を送ってらっしゃいましたね……」 「そうよ! 部活だってサボった事なかったし、授業中に居眠りなんてした事も無いくらい真面目だったのよ! それが何で……」 「確かに……表向きにはあなたに対する先生の評価はどの生徒よりも高かった……とお見受けしますが……」 「当然よ! 生徒会長になったのも先生達が推薦してくれたくらいだし……」 「しかし、それは貴女の“表”の顔……ですよね?」 「っ!? お、表の?」 「そうです。貴女は、自分を評価する大人や友人や先輩達には聖女の様な振る舞いをして評価されようとしていましたが……その一方で、自分には何のかかわりもないと判断した生徒や後輩には酷い対応をされていましたよね?」 「……っそ、それは……」 「特に、貴女が死ぬ原因となった“美奈穂”さん……彼女に対するイジメは貴女が裏で主導していましたね?」 「そ、そう! そうだった! そう! 私が死んだのは……美奈穂に包丁で刺されたからよ! 私は殺された被害者だった!! だから、美奈穂こそ地獄に落ちるべき女だったのよ!」 「山口美奈穂さん……。彼女は貴女にイジメられたのを苦に貴女を殺すという凶行に出てしまった……」 「そうよ! あいつが全部いけないのっ! あいつが私の事刺したから……」 「彼女も貴女を殺害した後自殺してこの地獄へと落ちてきています」 「あいつも死んだの? んで、地獄に? ふ、ふん! そんなの当り前じゃない! 私の事刺して殺したのだから……」 「確かに彼女は地獄へ堕ちましたが……しかし、彼女は貴女を殺したからここに落とされたのではありませんよ?」 「……へっ?」 「彼女はその後、良心の呵責に耐えられなくなり“自殺”してしまったから業を背負う事となりました」 「自殺した……から?」 「そうです。創造主から与えられた寿命を全うしようとせずそれを放棄してしまった罪は、どんな罪よりも重いのです……」 「創造主? 何よそれ? って……ち、違っ! そうじゃない! あいつは私を殺したから地獄に落ちたんでしょ? 人を殺したんだから地獄に堕ちて当たり前じゃない!」 「いいえ? もしも彼女が自殺を選ばなければ、地獄に落ちるという業は背負う予定ではありませんでしたので……」 「馬鹿言わないでよ! 殺人よ? この私を殺したのよ? これ以上無い罪を犯したのに……地獄に落ちないなんて事……ある?」 「貴女方が生きていた“物質世界”では、人同士が“共存”する事が最優先に置かれたために、その様な集団を裁くためのルール作りが為されたとは思いますが……こちらのいわゆる“精神世界”の考え方は下の世界とは全く違います」 「精神世界……? って、この……魂になったスカスカの身体の事言ってんの?」 「物質世界はもとはと言えば、創造主が作り出した“実験場”に過ぎません……精神世界では体験し得ない“実体のあるモノとの触れあい”を経験できる場として物質世界は作られました……」 「実験場? 触れあい? 経験?? 何を言ってんの? 意味が全く分からない……」 「今は物質世界の記憶が昇華されていない状態なので理解に苦しむでしょうが……そうですね、今居た貴女の世界のモノで例えるなら、物質世界はテレビゲームのRPGというヤツに似ていると理解して頂ければいいかと……」 「……RPG?」 「よく、物質世界こそが本物の世界だと勘違いされている方もいますが……物質世界はあくまで創造主が作り出した実験場であり、箱庭であり、ゲームの画面の中の世界だと認識してください。本来は肉体から魂が抜けた後のこちらの世界が現実……」 「魂の世界が……現実!?」 「そうです。物質世界にあったあらゆる物……特に肉体は、魂を入れる為の入れ物に過ぎません……さしずめ、RPGをプレイするのが貴女の魂で肉体がゲームのキャラだった……そう言う感じです」 「いや、じゃあ……私の人生ってゲームだって事?? 創造主だか何だかが用意した……ゲームの登場人物だった……と?」 「厳密にはちょっと違います。創造主が用意したとというよりも……ゲームで例え直すとすれば、貴女が設定したキャラを動かした……というニュアンスですね」 「私が……設定した? 私がいつ……そんな事を?」 「貴女は記憶を消して物質世界へ転生したのですから覚えていないのも当然ですが、貴女は転生する前に物質世界で“何を経験したい”かを設定して下へ降りたのですよ」 「何を……経験したい……か?」 「精神世界では誰かと触れあったり何かの刺激を新しく感じるという事が出来ません。疑似的には体験する事は可能ですが、その疑似的な感覚を呼び起こすには“実際の経験”が必要なのです。その経験をする為に物質世界が存在し、そこに貴女は転生した……。新たな経験を得る為に……」 「え、で、でも……経験を得るって言っても……考えたり……手で触って感じたりするのは……脳があったお陰だった筈だし……魂だとか精神世界とかは関係ないんじゃ……?」 「貴女の魂は肉体という受容体を通じて、触る事や痛いと思う事や辛いと感じる事などを脳を介して経験してきました。しかしその経験は肉体の為ではなく、魂に経験させるという方に重きが置かれていた筈です。実際……今も自分の身体を少し抓ってみてください? 抓ると意識したら痛みが再現されるでしょう?」 「痛っ! ほ、ホントだ……手は身体を透けるのに……抓る動作を意識してやったら……痛みが感じられた!?」 「肉体に入っていた時は、痛みは神経を伝って脳で処理され知覚されるという工程を踏みますが、この精神世界では物質が無い為それを完璧には再現しようとはしません……感覚の記憶は“行為の再現”によって魂が直接思い出すようになり……このように抓る行為を真似するだけで感覚を呼び起こせるようになります」 「……不思議……。抓ろうとか叩こうとか思わなければ身体は透けるのに……意識して触ろうとすれば……まるでそこに身体があるかの様に感じる事が出来ちゃう……」 「物質世界で体験した事は魂体になっても記憶されていますし再現“する”事も“させる”事も自由なのです。むしろ、そういう経験を覚え込ませるために物質世界へ転生していると言っても過言ではありませんから……」 「その転生……ってやつ? 私って……その転生ってやつを前にもやった事があるの?」 「勿論です。貴女の場合は数で言えば12回……。その内同じ惑星の人間として転生した回数が4回で、他の惑星の別の生物は3回……動物に限らず植物やらひとかけらの石に転生した事もあったようですね……」 「えっ? は? 植物?? 石ころ?? 何それ……? そんな物に転生させられたの? 私って……」 「転生“させられた”ではありませんよ? 貴女に限らず全ての魂は自分の希望した通りの転生を行うのですから」 「私が……希望した? その……人間以外の転生を??」 「そういう転生を希望する方は多いですよ? 人間という慌ただしい生き物に転生するのに疲れた……とか、動物になるのはもう飽きた……とか言われる方も少なくないので……」 「人間に……飽きた?? ちょ、その転生とかってやつ? それって私に限らず全体的に今まで一体どれくらい繰り返されているの?」 「どれくらい? さぁ……どれくらいなのでしょうね? 物質世界が出来てからずっと……というのが正しいのでしょうか?」 「確か……地球って……できて46億年とかなんと聞いたけど……まさかその間ずっと??」 「46億? ご冗談を。それは地球という物質が作られてからの時間の経過でしょう? 創造主が作り出した物質世界は人間が生み出した数字という概念では到底表す事など出来ませんよ?」  「数字で表せない程……? そんな中で……私は……たったの12回しか転生しなかった??」 「まぁ……石であった頃の時間が長かったようですからね。それこそ地球が出来た年数よりももっと長い時間石として宇宙を漂っていらっしゃいましたよ?」 「……地球の歴史よりも更に長い時間??? な、なんでそんな無意味な事を……そんな時間かけて……?」 「さぁ……。貴女の魂が考えた事なのでわたくしには想像し難い事です。業を清算し終えたあかつきには記憶も戻る予定ですから……そこで自分の考えを尋ねてみたらよろしいですよ。自分自身にね……」 「業の……清算……」 「さて遥さん? 先程わたくしは……物質世界は創造主の作り出した様々な経験を促す実験場というような説明をしたかと思いますが……ではこの“地獄”と呼ばれる場所は何をする場所なのか想像出来ますか?」 「……うぅ……。地獄って言えば……生きてる時に悪い事をした人を苦しめる場所って……聞かされてきたけど……」 「その表現は、まぁ……的外れでもなく、間違いではありませんが……少し考え方が違います」 「考え方が……違う??」 「この精神世界では物質世界の“寿命”を全うした魂に対して、経験した感覚を魂体に再現するという作業が存在します」 「経験した感覚を……再現?」 「先ほども言ったように、精神世界では物理的な痛みや苦しみと言ったものが存在しませんから再現でしかその感覚を甦らせる事は出来ませんが、その再現を定期的に行わないと魂が経験を忘れてしまうのです」 「経験を……忘れる?」 「考えても見て下さい? 物質世界とは違ってこの精神世界では時間という流れの概念が存在してません。食べ物があったとしたら永遠に腐らずそのままの形を維持しますし……魂が年を取る様な事も一切ありません。人間の世界で言う“永遠”というものがココにはあるだけなのです」 「時間の概念がない?? 永遠……?」 「これも物質世界のゲームの話で例えるのが一番早いのでそうさせて貰いますが……RPGというゲームを貴女も物質世界で楽しまれた経験がありましたよね?」 「え、う、うん……友達の家で……少し……」 「そのゲームではコントローラーを触らなければゲームはストップしたままになるし、操作をすればプログラムの通りにゲームの中の時間が進行していましたよね?」 「……まぁ……そんな感じだった……かな?」 「ゲームをセーブしていれば前の時間に巻き戻す事も出来ましたよね? ボスの前でやり直すとか……重要な選択をする前に戻るとか……」 「時間を巻き戻す……って言うか……続きからやるとかそういうヤツだよね?」 「我々の住む精神世界では物質世界の出来事をその様に観察しています」 「……えっ!?」 「地球の歴史というのはある程度プログラム通りに刻まれていって、最終的に地球というものが無くなるまでが一つの物語として再現されています……」 「え? ちょ、何? どういう意味??」 「この“地球が生まれて地球が無くなるまでという物語”が一本の“ゲームソフト”だと思って頂ければ分かり易いと思います」 「ゲームソフト?? 私達の居た世界が……?」 「貴女は数多あるゲームソフトの中から“地球で人間として暮らす”というソフトを選んで起動し、そして2000年という節目の時代を選んで自分の分身となる主人公に“遥”と名付けて誕生させました。今はそのゲームが途中でゲームオーバーとなりココに戻ってきたという訳です」 「それは……その……説明は分かり易いけど……えっと……」 「ゲーム(物質世界)で得られてた経験は魂世界で再現してようやく物質世界に行った意味を見出します。ですからこの“再現”するという工程は必要不可欠なのです」 「その再現をするのが……地獄??」 「まぁ、正確に言えば感覚を再現する場所は他にも無数に存在しますよ? 貴女がよく知る所では……天国とか……まさにそういう場所ですし……」 「……天国っ!」 「地獄が痛みや苦しみを再現する場所だとするなら、天国はその逆……快感や多幸感、性感の悦びなどを再現する場所ですから、魂は基本的にそっちの再現をしたがる傾向にあります」 「……快感……性感……?」 「誰もすき好んで痛みや苦しみを再現したいとは思いません……しかし、魂のレベルを上げる為にはこういう再現も必要である事も事実……。ですからこの地獄という再現場所を満遍なく経験させるために創造主は、物質世界での魂の行いを評価して再現場所の振り分けを行う事を決められました」 「魂の行いを……評価??」 「物質世界で言う所の裁判がそれにあたるもので、物質世界で行った全ての行動を“こちら”の善悪の判断でポイント付けし……そのポイントによって地獄で再現するか天国の様な楽な再現を許可するかを裁いたのです」 「魂の行動?? 善悪の判断ポイントでって……その、どういう事?」 「さっき貴女は……自分を殺した美奈穂さんこそ地獄に落ちるべき……と仰りましたよね?」 「そ、そうよ! でも……美奈穂は……殺人を犯したから地獄に落ちた訳ではないってあんたが言った……」 「そう……。魂の行動を評価するというのは、結果だけでは判断しないのですよ……」 「結果だけでは……判断しない?」 「要は、その凶行に至る経緯まで全て評価すると言った方が分かり易いでしょうか?」 「凶行に至る経緯まで……全部??」 「物質世界ではその罪の度合いによって罰の加減を決めるのが裁判であり、大体はそのルールに則って判決が下されますよね?」 「う、うん……多分……」 「こちらの世界では、その凶行に至った原因は勿論、生まれてその凶行に至るまでの感情の変化や環境の変化も評価の対象となります……その評価の中で、コチラ独自の善悪判断を行ってポイント付けを行っていくのです」 「美奈穂の感情の変化やらも……評価する……? そんな事が出来るの?」 「先程ゲームで例えたのと同じです。こちらの世界では物質世界のどんな時代どんな時間にもアクセスできますから……個人の感情なども追いかける事は容易いのです」 「っていう事は……その……殺人を行っても罪にしなかったっていう……理由って……」 「美奈穂さんの人生を何億通りとシミュレートしてみた結果、貴女という存在さえいなければ彼女は自殺をする事も殺人を犯す事も無いと判断されました……つまりは、貴女が全ての元凶だと判断されたので彼女の殺人は不問とされたのです……」 「私が……全ての元凶!?」 「実際、美奈穂さんを器にしていた魂に何度も再転生を繰り返してもらってパターンを試しても貰いましたので間違いありません」 「再転生を……何度も?? え、ちょっと待って? 私って……その魂が何度も転生するだけの時間……この辺を彷徨っていたって事?」 「先程から申しておりますでしょ? この世界では時間の概念はないと……。ですから、その転生も時間で表現するなら“一瞬”で何度も繰り返した事になってます」 「そ、そ、そっか……ここは時間って概念がない……か? う、う~~ん、でも言われても良く分からない……」 「まぁ、それらの疑問は魂が昇華した時に全ての本当の記憶が戻るのですから、今説明しても本当は意味はないのですけど……、今認識を混乱されるのは後々面倒なので毎度わたくしが説明する事にはなってます……」 「う、うん……っで? えっと……つまりは……私は結局その魂の評価とやらで地獄に堕ちる事が決まっちゃったのよね?」 「そうです。無理やり余命を縮めてしまう“自殺”よりは……まぁ罪は軽いですが、それでも他人の自殺の原因になったのは間違いないので……」 「じゃあもし……美奈穂が自殺してなかったら……私は地獄に堕ちる事は……なかった……と?」 「あぁ……貴女の場合はもしもそのまま成人していたとしても、20代で結婚詐欺を企てる予定でしたし、30代では保険金詐欺にも傾倒する予定でしたので……どちらにしても評価は下がる一方でしたね……」 「そ、そんなの! 勝手な予想でしかないでしょ! 私がそんな事する訳が……」 「こちらも何度もシミュレートした結果ですよ? 貴女の魂は、貴女が記憶していないだけでそのシミュレートに1万回以上は参加させられているのですから……」 「い、い、1万ッっ!? そ、そんなの……私……覚えてないわよ!?」 「当然です。貴女の記憶は都度消去をしてまいりましたから……」 「1万回も……転生しなおしていたの?? 私??」 「いえ、転生ではなくシミュレートです。転生は人生を最初から最後まで経験する行為の事……シミュレートは、一つの分岐点に対して同じ性格同じ立場で事が進んだら……というIFの世界の再現……」 「……それって……ゲームで言ったら……セーブとロードを繰り返して物語を見ている感じ?」 「そうですね。新しくゲームを始めるのが“転生”で途中から別の人生だったらどうかを探るのがシミュレートと考えて頂ければ……分かりやすいですかね?」 「まるで……本当にゲームみたい……」 「えぇ。ですから、物質世界で発明された“ゲーム”というものは……我々の世界の模倣じゃないかと考えてもいます。お陰で、この時代を経験してきた魂に説明するのがとても楽になりました♥」 「なんか……まだ信じられない。死んだ後に……こんな世界があったなんて……」 「でしょうね? 大体の魂は……その様に零して地獄へ堕ちて行きます……」 「でも……私……なんで美奈穂にキツく当たろうと思ったのか……思い出せないわ。きっかけがあった筈なのに……なぜかあいつの顔を見ると急に憎たらしく思えてしまって……」 「それは今の貴女のせいじゃないかもしれませんよ?」 「え?」 「貴女の元の魂が……今回の転生では“こういう事をしてみよう”と思った結果、貴女は彼女をイジメたのだと思います」 「え? えっ!? どういう事? それって……」 「転生をする前の魂は基本的にこれから行く物質世界で“どんな経験をしたいか”という目標を持って転生を行います。転生の際に記憶は失いますがその目標は肉体の遺伝子に書き込まれますので、その人の性格だったり成長はその遺伝子の情報に基づいて行動するようになっているのです」 「い、遺伝子??」 「例えば……今回の転生では結婚して子供を作るという目標を立てたとすると、転生後の人物は結婚願望が強かったり……性欲が強かったり……そういう物質的な欲求として個性を与えます」 「じゃ、じゃあ! 私が……その……特殊な性癖を持っていたっていうのも……まさか……その影響が??」 「首絞めフェチ……とか言いましたっけ? 物質世界では……」 「う、うん……まぁ……そう……」 「貴女の魂が何を遺伝子に書き込んで転生させたのかは分かりかねますが、大抵の“原因の分からない曲がった性癖”と呼ばれるものは最初から遺伝子に組み込まれていた可能性もありますね」 「じゃ、じゃあ! 私が……嫉妬深い性格なのも? あと……母親は好きだったけど父親が大っ嫌いだったのも? 美奈穂をイジメて……楽しいって……思ってしまっていた……事も?」 「それら全てが書き込まれていたとは思えませんが……一部的にはそうかもしれませんね? 特に……美奈穂さんをイジメようと思った原因が思い当たらないのであれば、そういう倫理的、道徳的に悪い事も経験してみたいと魂が望んだ結果なのかもしれません……」 「そ、そんな……なんで? 何で私は……美奈穂に……あんな酷い事を……?」 「最初から美奈穂さんをターゲットにしたかった訳ではない筈ですよ。物質世界は不確定な要素の連続なのですから……。たまたま貴女の人生に美奈穂さんというターゲットにし得る人間が近くに居たというだけです……」 「不確定な要素の連続……?」 「時代や時間が少しでもズレていれば、恐らく別のターゲットが選ばれていたでしょう。シミュレートを重ねてみても、結局将来的にはそういう不道徳な行いをする運命にありましたから……」 「私の意思では……なかった……と? どんな人生でも私は……何かしら問題を起こしていた……と? 遺伝子にそう命令されていたから……?」 「理不尽に感じるかもしれませんが……これは貴女自身が望んで自分に行わせた結果です」 「すべては……経験を得る為?」 「そうです。魂の経験する事……それがこの世界での全てですから……」 「魂が経験する事が……全て……」 「さて、そろそろ説明は終わりにして……次の工程に進ませて頂いても構いませんか? 恐らくどれだけ物質世界の言葉で説明しても……完全に理解出来る事は無いと思いますので……」 「うぅ……う……うぅ……。次の……工程って?」 「それは勿論……経験の再現を行う工程ですよ♥ 地獄としての……ね?」 「っひ!? じ、地獄……の?」 「この地獄ではまさに様々な再現を行う事が可能なんですよぉ? 例えば、地上1000メートル上空から落下して地面に激突するという再現とか……針の上を歩き続けるという経験とか……4000度のマグマの中に何度も浸かるという経験まで……想像しうる辛い経験ならどんな事でも♥」 「ひぃぃぃっ!! い、い、いや!! そんなの……嫌!! 絶対嫌っっ!!」 「まぁまぁ……実際に体験してみると……これはこれで悪くないものですよぉ? 何せ……肉体では一瞬しか感じれなかった痛みや苦しみが無限に味わえるんですから……」 「いやっっ! お願いィぃ!! こういうの嫌!! 私……こういうの……絶対無理!!」 「そうやって怖がれるのも今の内だけです♥ これを繰り返されれば……いずれ心は虚無になって痛みが何だったのかさえも認識できなくなりますから……」 「ぃやあぁぁあぁぁ!! やだぁぁ!! 助けて!! 怖いぃ! こんな所よりももっと別の場所に移してぇっっ!!」 「っとは言いましても? 貴女の魂が望んだ事ですから……」 「知らないっ! 知らないっっ!! 私はそんなの言った覚えもないし、言うとも思えないっっ!!」 「悪い徳を積みたいと思ったのでしょうから……そう言う事ですよ?」 「例えそうだとしても! 嫌なものは嫌なのっ! これを自分が望んだなんて言われても絶対信じられない!!」 「痛い事をされるの……怖いですか?」 「こ、怖いに決まってるじゃない!!」 「嫌ですか……?」 「当たり前よっ!!」 「でしたら……痛くない再現なら……いかがです?」 「……っ!? い、痛くない……再現??」 「えぇ。痛くなくて……ただ苦しいだけの再現……それなら、許容できるのでは?」 「苦しいって……その……首を……絞めるとか? そういう系?」 「まぁそんな感じですね。そういうのに近い方が今の貴女の性癖に通じるものがあって……まだ許せるのでは?」 「苦しいだけって言っても……死ぬまでやるんでしょ? 何回も……」 「死ぬという概念はありませんが……まぁそうですね、繰り返しはしますよ?」 「でも……痛い事はしないの……よね?」 「えぇ。その地獄では痛い事は一切しません。むしろ楽しくなるかもしれませんよ? 苦し過ぎて……」 「た、楽しくなる? それって……首が締まって酸欠し過ぎて……可笑しくなるって事?」 「肉体があればそういう反応も有るかもしれませんが……ココではそういう物理的な反射は起こしません……単純に、楽しい気分になるかもしれない……という話です」 「う、うぅ……言ってる意味が分かんないけど……。とにかく……痛いよりはマシ……かも……」 「でしょ? 最近わたくしが作り出した地獄ですので……まだまだ体験者が少なくて困っていたのです♥ 良ければそちらの地獄の方を味わって貰いたいなぁって個人的には思ってます♪」 「あんたが作った……地獄? 地獄って……勝手に作ったり増やしたりして良いものなの?」 「基本的には自由ですよ。わたくしは物質世界では特に“女性”という生き物が大好きでしたので……その女性が苦しむ姿を見られる地獄をいつか作りたいと思ってました♥」 「あんたも見た目に反して……大概歪んでるわね。こんなのが閻魔で……地獄は大丈夫なワケ?」 「フフフ♥ 大丈夫だと思いますよ? なにせ……ちゃんと地獄の体は保っていますので♥」 「むぅぅ…………」 「ではでは、送り先も決まったという事で早速……獄卒長? 彼女を例の場所へ連れて行ってあげて頂戴?」  閻魔との話がひと段落付くと、指示を受けた獄卒長の女鬼が「はい」と小さく返事を返して遥のもとへと歩み寄って来る。  そして遥の腕を強く掴むと、そのまま彼女を引っ張りながら部屋を後にしていった。  閻魔の部屋を出れば、そこは誰もが想像するおどろおどろしい地獄の光景が広がっていた。  煮え滾る溶岩の風呂釜……険しい丘に敷き詰められた無数の針……多種多様な拘束台……崖から伸びる異形の触手達……燃え盛る火山……  それらから聞こえる阿鼻叫喚な悲鳴や苦悶の声を聞きながらも、遥は地獄の奥へと続く細い道を歩いていく。  幅は数センチくらいしかない細い歩道……  左右にはボコボコと泡立ちを見せるいかにも熱そうな溶岩の川が流れており……遥はそれを見る度に「もしも自分がこんな川に突き落とされたら……」と、想像し身を震わせてしまう。  そして、その細い道を歩き終えると……何やら人工的に作られたかのような巨大なスタジアムの様な建物が見えて来て、それを見た遥を圧倒させる。  歴史の教科書で見たローマに建てられたコロセウムを思わせる石造りの大きく丸い形で整った巨大な壁……  その入り口らしき大きな扉を開いて中へ入り通路を抜けると、こちらもコロセウムを思わせる段々に設けられた観客席と……野球場を模したかのような大型のモニターが目に入って来る。  その大型のモニターは中央に置いてある四本の柱と、それぞれの柱に繋がれている鉄製の頑丈そうな“枷”を、そこがメインステージだと言わんばかりにどアップに映し出している。 「な、なにココ? 闘技場か……何か?」  思わず出た遥の言葉に、獄卒長は口元をニヤつかせながら「違う」と言葉を返し…… 「ココは……これから娯楽になる予定の場所さ。お前の苦しむ姿を見て楽しむ……地獄で唯一の娯楽施設にこれからなるんだよ」  と、答えを述べた。  その言葉の真偽を裏付けるかのように、観客席には既に様々な鬼の姿をした獄卒達が溢れんばかりに席に座って遥の登場を心待ちにしていた。  その光景を見た遥は……流石に自分の身に何をされるのかという事が不安になり獄卒長に言葉を投げかけてしまう。 「私は……これから何をされるの?」  それを聞いた獄卒長は再び口元をニヤつかせる様に笑って見せ、 「なぁ~に、お前の嫌いな痛い事は一切しないから安心なさい? それよりももっとずっと楽しい事をしてあげるから……楽しみにしておくんだ……」  と、含んだ物言いで答えた。  遥はその何か言いたげな物言いに増々不安を煽られるが……獄卒長の引く手に逆らう事が出来ず彼女と共にコロセウムの中央へと歩かされる事となった。  目の前には四角形の柱を作る様に置かれた背の高い丸い柱が4本。  その柱の根元には鎖で繋がった鋼鉄の枷がそれぞれに設置されてある。  獄卒長は部下の女性獄卒に指示を出して遥を地面に仰向けに寝かせ、それらの枷で手足を拘束するよう指示を出した。  その指示に従って遥はそれぞれの柱の丁度中心に位置する地面に寝る事を強要され、枷のある場所まで手足を伸ばす様指示された。  それに従うように手を斜め上に万歳すると、手を担当した獄卒が遥かの左右の手にそれぞれ枷をはめ、それが勝手に抜けたりしないようキツく調節を施して錠を掛け拘束を行っていった。  足も同様に……足首の部分に枷をはめ、こちらもしっかりと固定できるよう錠を掛け拘束を施していった。  やがて、巨大なモニターには……一糸も纏っていない裸の格好の遥の身体が上下左右に手足を開かせて拘束されている状態を映像に映し込んだ。  手も足も動かせない……降ろす事も抵抗する事も許されなくなった遥に、獄卒長はボソリと不安を煽る様な言葉を伝えて来る。 「これからお前が受ける事になる刺激はこの地獄の世界では規格外に優しい刺激になるのは間違いないが、その分経験する苦しみは物質世界では決して味わえない凶悪な苦しみをもたらす事になる。せいぜいこの地獄を選んだことを後悔しながら苦しみ藻掻いて観客を楽しませるんだな?」  その様に告げると、獄卒長は柱の裏側にある大きなレバーを力強く下げた。すると、ズズズという大きな音共に柱に繋がっていた枷の鎖が柱側に巻き取られ、十分に巻き取ったと判断されるとそのまま鎖が自動的に柱の上へと移動を開始し、遥の身体を上へ上へと持ち上げ始めた。 「ちょ、な、なに? 拘束されたまま……宙に浮いてる!?」  枷の鎖が柱の一定の場所まで持ち上がるとそのまま停止し、遥をX字の格好になるよう拘束したまま宙に浮かせる形を取る事となった。持ち上げられた高さは獄卒長の腰くらいの高さまでしか上げられていないが、それでも宙に浮いているという事実は変わらない為、背中に当たっていた床の感覚が無くなったのは遥にとっては不安な要素が増えた事に他ならない。  そして……裸の格好のまま手足を広げさせられ、それを大画面で不特定多数の獄卒達に見られている……という事実が、不安と共に遥の羞恥心にも火を点け、手足の動かせないもどかしさに拍車を掛けていった。 「な、何するつもりなのよぉ……は、恥ずかしいから……降ろしてよぉ……」  顔を真っ赤に火照らせながらもまだ動かす事が出来ている腰やら胸やらをモジモジさせてもどかしい感情を表現する遥だが、その様な恥ずかしがる姿を見た獄卒達は逆に興奮気味の歓声を上げて彼女を煽るような行動を取って来る。 「よし、それじゃあ……準備は出来たし、そろそろ始めようか……」  獄卒長がその様に零すと、その奥に控えていた女性の鬼達が「はぁ~い♥」と甘い声を零して遥の周りに集まり始める。  地獄の獄卒とは思えない程……肌の露出の激しい格好のセクシーな獄卒達……  皆一様に胸やら股間やらを過剰に露出させた赤と黄色の縞々模様のビキニを穿いて遥の横や足元へと近寄って来る。まるで、映画か何かで見たカジノのシーンに登場するバニーガールを彷彿とさせる様な見た目の、美人過ぎるお姉さん鬼達……  彼女達は見た目こそ人間の成人女性のポロポーションを有してはいるが、肌は赤だったり紫色だったりと遥から見れば異質とも思える色を有している。  見た感じはセクシーで美人なお姉さん達だが、肌の色や短いながらも頭には角が生えているのが確認できたため、彼女達はやはり地獄の鬼である事が確認できる。  しかし、彼女達の持っている道具は見た目にも痛そうな金棒や切れ味の鋭そうな刃物と言った危険なモノではなく、どう考えても暴力的な事を行うようには見えない……“鳥の羽根”の様なものをそれぞれが手に持って近づいてきていた。  その鬼が持つに似つかわしくないそれらの羽根を見て遥は目を白黒させながら困惑する。 「あの……え? なに? この人たちは……何? 鳥の羽根?? なんで……羽根なんか持って近づいてくるの?」  上半身の左右にそれぞれ一人ずつ。開いた股間の間に一人……そして、左右の足元に一人ずつ……後は、遥の浮いた体の下へと潜り込んで背中を見上げて座ってる獄卒が一人……と、それぞれに与えられた担当へ配置につくかのように位置取っていく。  すぐ手を伸ばせば体に触られるという位置まで接近し体の様々な部位を囲むように位置どった鬼達に、遥はそこはかと湧いてくる嫌な予感に喉を鳴らせるように生唾を呑み込む仕草を取った。 「閻魔女王様が作られた新しい地獄……。これよりお前……遠藤遥には“笑い地獄”を味わって貰う」 「はっ? えっ?? 何? わ、笑い? 笑い地獄って言った? 今??」 「笑い地獄というのはその名の通り……対象を“無理やり”笑わせ、その笑いによって“苦しい”という感覚を植え付ける地獄の事を言う……」 「ま、待って? 何それ? 無理やり……笑わせる?? それが地獄?? 何を言っているの? い、意味が全く分からない……」 「お前は生前……笑うという感情表現をした事があるから分かるだろう? 笑うという行為が続けばどれほどの苦しみを味わう事になるかも……」 「そ、そりゃ……テレビとか見て笑った事は数えきれない程あるけど……苦しいって……どういう事? 別に苦しんだ経験は……」 「いいや、お前はある筈だ。友達同士でじゃれ合って……思わず笑い過ぎて苦しくなったことが……」 「友達と……じゃれ合って??」 「そしてお前はその時知った筈だ。自分はこういう刺激に対して……めっぽう弱くて……苦手だという事を……」 「刺激に対して……めっぽう弱い?? 苦手……って……え、嘘! そ、それって……」 「今からお前にはこの獄卒達にその刺激だけを送り込まれて、無理やり笑わされ続ける地獄を受けて貰う事になる」 「刺激? 刺激って……まさか、抵抗できない私のカラダを……この人達が持ってる羽根で……!? ひっ!? う、嘘でしょ?? ねぇ、冗談よね?」 「いいや、冗談などではないさ。お前がこれから受ける刺激は地獄の中でも“最も不快で、最も耐え難く、最もじれったい”刺激……。そう“くすぐり”という刺激だ」 「う、う、嘘っ! 嘘っ!! 何よそれっ!! くすぐりって……まさかあの身体をコチョコチョ触られるあのくすぐり??」 「そうだ。お前も何度も経験して来ただろう? 授業中に後ろの席の友人から背中を撫でられたり、母親に悪戯した事がバレて思いっきりワキをくすぐられたり、水泳の授業の時に先生の話も聞かずに友達とじゃれ合って足の裏を触られたり……」 「ひっ!? な、な、何でそんな具体的な事知ってんのよ! そ、そ、そりゃ……ヤられたことあったケド……」 「その時……思わず笑ったりしなかったか? 笑ってみてどう感じた?」 「ど、どう感じたって……別に……気色悪い触り方するなっ! って思っただけで……」 「そう……その程度で済むのが“じゃれ合い”の範疇だ。しかしこの地獄では違う……」 「……違う?」 「この地獄ではその“じゃれ合い”が永遠に続く……」 「んっ、え!? え、永遠??」 「そう……。業の清算が終えるまで……永遠に……だ」 「ちょ、そ、その業ってやつは……いつ……消えるの??」 「さぁ……? それは閻魔様が判断される事だから……我々も分からん」 「そ、そんな! それじゃあ私は、いつまでこの地獄に居なきゃいけないのよ!」 「時間や日数などという概念はこの世界にはない……。だから私も“永遠”という言葉で表現した」 「う、嘘……嘘よ! そんな“いつ終わるとも分からない地獄”に私は……堕とされたっていうの?」 「地獄とはそういう場所だ。閻魔様の気分一つで罪が浄化される事もその逆もあり得る場所なのさ……」 「気分次第っ!? じゃ、じゃあ……私、さっき……あの人に……ついついため口で話しちゃったけど……」 「だから先に言っただろう? 失礼のない様に……と」 「そ、そんな! そうと分かっていれば……もっと……愛想よく出来たのに……」 「あぁ、そう言うのも無駄だよ。魂体であるお前の考えは閻魔様には筒抜けだからな……閻魔様の前だけイイ顔しようとしても結局評価を下げるだけだったさ……」 「うぅ……なによ……。何なのよ! この地獄とか……精神世界とか物質世界とかぁ!」 「さぁ、もうお喋りも程ほどでよかろう? コレを楽しみに見に来ている獄卒達が暇してしまうからな……」 「これから……私のカラダ……くすぐられるの? この人(鬼)達に?」 「そうだ。彼女達の持っている羽根は閻魔様がこの地獄用に作られた特別なくすぐり羽根だ……物質世界では決して味わえないくすぐったさをこれから味わう事になるぞ……」 「でも……私……魂の体よ? こんな羽根なんて……透けて触れないんじゃないの?」 「いいや、お前の魂はこの地獄に堕とされたことによって物理的な干渉を受けられるよう調整が入れられている。だから、お前の魂は精神世界にありながらも物理的な刺激を感知できるし、コチラの調整次第では物理世界の時よりも刺激を鮮明に表現する事も出来るようになっている……」 「な、何よそれ……反則じゃない……」 「地獄は、物質世界の刺激や経験を再現して魂が忘れないよう改めて経験し直す場所だと教わっただろう? その為には刺激を再現できないと意味がない……。想像や思い起こしだけでは限界があるからな……」 「うぅ……何この羽根ぇ……毛先が気色悪い動きしてるぅ……うぅぅっ……」 「さぁ、では始めようか……。この地獄中に響き渡る程の大笑いを……獄卒達に聞かせてやってくれたまえ」 「ひっ! ひぃぃっ! それ、近づかせて来ないでぇ!! 気色悪いぃぃ! いや……いやっ! いやぁぁぁぁあっぁぁぁ!!」  獄卒長の合図によって遥に対する“笑い地獄”が開始された。  遥を囲むように立っていた女獄卒達はその合図と共に次々に羽根を遥の身体中に這わせていき、彼女に凶悪な刺激を送り込み始める。  遥の絶叫は、見ている観客たちに地獄の始まりを知らせるサイレンの様に響き渡った。  そしてその絶叫は……  すぐに遥の顔を歪ませ、彼女の意図していない表情を無理やり作らせる事となる。  その表情は……笑顔だった。  地獄の奥深くの場所で遥が浮かべた最初の顔は、地獄のおどろおどろしさとは無縁であろう……信じられない楽しそうに笑う、歪んだ笑い顔だったのだ。


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