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ショーダウンⅡ 『3:カジノへ』

3:カジノへ 「カジノオーナーの伊角……百合子……。どこかで聞いた事がある名前と思ったら、あの有名な保険会社の女社長の事じゃない。伊角生命の若社長でしょ? CMかなんかで見たことあるわ……」  歌舞伎町の一等地に立つ一際豪華で一際煌びやかなホテル『クイーンガーデン伊角』。その入り口の手前へと降り立った綾香は、自分よりも遥かに高くそびえ立っているホテルの全景を見渡してフゥと溜息をつく。  ホテル全体は真っすぐ横に広がっている造りではなく端が若干三日月型に湾曲していて、入り口のある中央を両端の部屋がやや見通せるような造りになっている。  入り口の手前にはこれまた豪華で巨大な噴水が音楽に合わせて様々な色の光水を打ち上げていて、噴水中央に掲げられたホテルの看板を強調するかのように水が様々に舞い踊る光景が楽しめる。 「よくご存じで。そうですの……これは伊角生命の社長が建てたホテル……」  噴水の荘厳な音楽を片耳に入れながら、綾香と麗華は生真面目そうなボーイに促され回転式の扉からホテルの入口へと入っていく。 「確か……伊角生命の方もカジノ保険を導入したって聞いてたけど? なんでも……滅茶苦茶保険料が安いとか……」  20階建てのフロアはフロントからは吹き抜けとなっていて、天井から下がる豪華なシャンデリアも遠くにあり過ぎて小さく見えてしまう程に中央の空間が広い。  ひいてある絨毯も置いてある調度品も椅子もテーブルも全てが高価そうだと一目でわかる洗練されたものばかりで……高価なものに囲まれ慣れていない庶民派の人間には逆に落ち着かない気分にさせられそうだ。  綾香も周りの豪華さに負けない程の妖艶で華やかなチャイナドレスを着てきたつもりではあったが、流石に急ごしらえで用意したショー用のドレスと本物の高級品とではあまりに差があり過ぎて……その庶民派の気分を存分に味合わされているようで綾香は溜息しか出ない。 「そうですわね。厳密にはわたくし達との保険とは少し違いますけど……しかし、保険料が異常なほど安いというのは確かな事ですわ……」  ホテルの受付は入り口から入った目の前に大きく広がっているが、そのすぐ真横にはホテルの受付にも負けない横に長い大きなフロントが広がっていて……“保険相談窓口”と書かれたそこにはホテルの受付以上の人数のスーツ姿をした女性が配置され、客さんの対応に追われている様子が伺えた。 「……ホテルの入り口の真横に保険の相談窓口? 流石……保険屋が建てたホテルね、こっちの商売も抜かりなくやってる感じか……」  綾香と麗華は忙しなく接客を行っている保険窓口を横目に奥のエレベーター乗り場へと足を運び、カジノのある地下を目指す為に“下へ”のボタンを押して遥か上階から降りてくるエレベーターの到着を待った。 「しっかし……保険屋がホテルもカジノも運営しているとはね……。そんなに儲かるものなの? 保険会社って……」 「そうですわね……。儲かるというよりも“お金が集まる”と表現する方がしっくりくると思います……」 「……お金が集まる?」 「保険というのは“もしも”の時に備えるという性質上、何も無ければ保険金だけが会社に集まる様になってますの。そのお金は結局“もしも”の時に支払う為のお金ですので、一人だけが保険に加入しているという状況であればその保険金に手を出す事は出来ませんが……」 「そっか……不特定多数の人間が保険に入っていればその“もしも”が一人の身に起きても他の人間の保険料でもまかなえるようになる……と。保険に入っている人間が一斉に事故を起こさない限りは会社にはお金が貯まり続ける……そういうカラクリか……」 「まぁ、そうは言いましても……保険事故は大なり小なり毎月のように起こるものですし、支払う量と入る量を比べればものすごく裕福になれるというものではないのですけどね……」 「ふぅ~~~ん。でもここの伊角って言う女社長は保険屋でありながらホテルも経営してしまう程資産を持っている……と?」 「それは彼女の地の資産力が高いから成せる業ですわ」 「地の資産力……? 彼女ってそんなに大金持ちだったの?」 「元々は地元財閥の御令嬢だった……と聞いておりましたが、詳しくはわたくしも調べておりませんから分かりかねます」 「まぁ、今回はその伊角とかいう社長と戦う訳じゃないもんね? 本命はサクラだかカエデだかモミジだかいう女の方……」 「日野紅葉……。わたくしの調べでは、現在の年齢は25歳……彼女がハタチの時に都内のディーラー養成校へ入学、成績や技術は中の上といった感じで平凡……卒業後はホテルゴールドベガスにディーラーとして入職するも……」 「ゴールドベガスで私が起こした事件のせいですぐに閉店に追い込まれて職を失う……か……」 「職を失って一時無職の状態に追い込まれますが、なぜか伊角社長の声が掛かってココ……クイーンガーデン伊角のカジノディーラーとして再就職を果たした……」 「そして、初めての就職先を潰された彼女は私に恨みを持っていて今に至る……か……」 「今分かっている事はザックリこの程度ですわね……」  麗華がそこまで話すと、タイミングよくエレベーターのドアがチンと鳴って入り口を開いた。麗華はエレベーターに乗り込むと“カジノ:クイーンガーデン”と書かれたB3のボタンを押し、綾香が乗り込んだのを確認すると閉じるのボタンを押して扉を閉めた。  エレベーターは扉を閉めると静かに動き始め、二人を乗せて地下三階へと降りていく。 「そう言えば……夏姫さんに今日の事知らせなくて本当に良かったのですか? わたくしがショーを見に来たのはご存じなのでしょう? 少しくらいは説明しないと不審に思ったりしませんか?」 「……そう、私も事情ぐらいは話そうと思ってあの後夏姫の部屋を訪ねたんだけど……」 「……?」 「部屋から夏姫は出てこなかったわ。疲れて寝ていたんだとは思うけど……朝訪ねても返事は返ってこなかった」 「それは……何か嫌な予感が漂いますわね……」 「いつもなら、黙ってても私の部屋に飛び込んで入って来るくらいショーの後でも元気な夏姫なのに……」 「部屋に戻ったのは……確かでしたの?」 「さぁ……。私はショーが終わった後部屋に戻らずにあんた達と合流したから……」 「そう……ですか……」  二人の間に気まずい沈黙が流れた。夏姫を巻き込みたくないと思っている綾香は、出来れば彼女にはこの件が収まるまで平穏に過ごしていてもらいたいと思っているのだが……昨日のショーが終わった後の夏姫の安否は誰も確認していない。麗華はその不穏な状況にそこはかとなく嫌な予感を募らせるが、それを綾香に告げるのは増々空気が沈んでしまう気がして言葉に出す事を躊躇った。そうこうしているとエレベーターは目的のB3へと到着し、再びその扉を左右に開かせる事となった。 「うわ……凄い入口ね……」  エレベーターが開き、短い廊下へ歩み出て正面に見えたカジノの入り口を見て綾香は思わずそのような感想を口から零した。  人が同時に5人くらいは横並びに入っても十分に店内に入れそうな……巨大な門のような赤く重々しい扉。その扉には左に龍が黄色い球を片手に握っている彫刻が掘られていて、もう片方の扉には虎が荒々しく牙を剥き出しに吠えている様子の彫刻が掘られている。  彫刻の周りには金属で出来た棘のような装飾が囲っており、その外側には中華皿で見かけるような四角い渦巻のマークが描かれてあった。  まるで来場者を威圧するかのように佇んでいるその入り口は、カジノが開店前である事を示すように“CLOSED”という看板が扉の前に立ててある。 「普段はこの扉は内側に開きっ放しになっているようですが……開店前のカジノですからしっかり扉は閉め切られているようですわね……」  麗華と綾香は入口へと至る赤絨毯の引かれた短い廊下を歩み、その巨大な扉の前へと立った。 「なんか……こうまで厳重に扉が閉められているのを見ると……中の様子は意地でも客には見せないって言わんとしているようで、怪しさ満点ね……」  綾香がその様に言葉を零すと、扉の右上に備え付けられていた監視カメラがキュルっという小さな音を立てて二人の様子を追って画角を調整する様子が伺えた。そしてそれから程なくして扉の裏手側からガチャンという金属音が鳴り、扉は中央から重々しく奥に向かってゆっくりと開き始めた。 ――ズズズズズズ……  扉が半分ほど開かれると、店の中から激しい音とスポットライトの光が二人の目と耳に襲い掛かり綾香は思わず片目を閉じて怪訝そうな表情を浮かべる。  クラブのダンスホールを思わせる薄暗い室内に赤・青・黄・緑・紫と色鮮やかに動き回るスポットライトの光……床を震わす程の重低音と掻き鳴らされるギター音、いくつもの楽器が組み合わさったロック調の音楽に海外の男性歌手の奇声のような甲高い歌声……  およそ“若者向けを意識したカジノ”と言われ思い浮かびそうな体をそのまま形にしたかのようなそのフロアのありように綾香は思わず「うわ……」と、顔を引き攣らせながら感嘆の声を漏らした。 「ようこそ……椿綾香様。お待ちしておりました……」  扉がある程度開き切ると横から綺麗な和風の着物を着た髪の長い女性が姿を現し、手を前に組んで深々と頭を下げてお辞儀を行った。 「……こいつが……紅葉?」  黒く艶やかな美しい髪を前に垂れさせながらお辞儀をする背の高いその女性は、挨拶が終わると手を前に組んだまま顔を上げニコリと綾香達に笑顔を零す。その顔は優しい美人なお姉さんを体現したような容姿で、笑顔を見せ終えても目は閉じているようにしか見えないくらいに細まっており物腰の柔らかそうな印象を綾香に与える。 「いえ、彼女はアシスタントの……」  麗華が着物の女性の事を説明しようと口を開くが、それを遮る様にして彼女は自分の方から自己紹介を始める。 「初めまして。私は紅葉様の専属アシスタントの“八代 牡丹(やつしろ ぼたん)”と申します。本日は紅葉様に代わりまして綾香様の“お相手”を務めさせていただく予定ですので……どうぞよろしくお願いいたします」  再び深々と頭を下げお辞儀を行う牡丹と名乗ったこの女性……物腰や表情、口調は柔らかいと感じさせるが、言葉の節々に何かを強調するようなわざとらしい妖しさを孕んでいて嫌が応にも警戒を抱かせてくる。綾香はその丁寧な中にも邪気が見え隠れさせている彼女の言葉に「フン」と鼻から息を吐いて警戒の睨みを利かせる。 「相手って……どういう意味よ? 私とイカサマ勝負でもするって言うの? あんたが?」 「いえいえ。私はそのような物騒な事は出来ませんので……」 「じゃあ……何の相手をするってのよ?」 「フフフ……♥ それは、中へ入ってご説明いたします」 「……?」 「さぁさぁ……まずは紅葉様のもとへご案内させて頂きますので、どうぞこちらへ……」  牡丹はお辞儀の姿勢のまま片手を右に差し出して二人へ扉の奥へと入るよう促しを入れた。  その促しを受け綾香と麗華はCLOSEDの看板を避けて扉の中へと入っていったが、二人はその時気付かなかった……  お辞儀をし続けて頭を下げている牡丹がかすかに口角を上げ笑みを浮かべた事を。 「では、椿綾香様と白州川麗華様……改めましてようこそ。カジノ……クイーンガーデンへ♥」  頭を上げた牡丹はそのように零すと扉の裏に備え付けられた電子パネルを操作して扉を閉じる作業を行っていく。  まるで……罠に飛び込んだ獲物を外に逃がさないよう囲い込むように、その扉は重々しくその入り口を閉じていった。

Comments

くすぐりまではもう少しお待ちくださいまし。でも、初代のショーダウンよりは綾香さんのくすぐりシーンは早いかと笑

ハルカナ

いよいよ戦いが始まるんですね…!このくすぐられるまでの長い展開やシチュエーションが見れるのが楽しみです。

こーじ


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